世界中の優れた学者の授業を受けられるメリットを生かせ
2020年07月08日
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はいま、学校への「ビッグブラザー」の登場を後押ししている。このビッグブラザーはジョージ・オーウェル の小説『1984年』に登場する監視体制を支える「怪物」だ。
感染者追跡ソフトを大学独自に開発するといった動きもあるが、人工知能(AI)を活用した試験監督ソフトのもとで、自宅で試験を行う動きもある。ただ、授業から試験までをオンラインで行うことが基本的に可能だという認識はこれまでの独りよがりで遅れた日本の大学教育の欠陥を気づかせることになるだろう。海外の優れた大学での単位取得をめざす若者が増えるに違いない。
米国には、遠隔監視によってライブで試験監督する複数の会社がある。試験を受ける学生の表情を監視するだけでなく、話し声を聴いたり、学生の部屋の周りをカメラで見回したりできる。なかには、顔認証を利用したり、視線追跡ソフトまで使って不正を防止する方法をとる会社まである。
もっとも有名な試験監督会社はProctorUだろう。同社は2019年に75万人以上の学生について200万のテストを監督した実績がある(ワシントンポスト2020年4月1日付)。同社のサイト情報では、過去1年間に288万件以上の試験監督を実施、違反が確認されたのは8万2452件だった。
ほかにも、より厳しい監視を行うProctorioという会社もある。試験を受けている者の話声や視線の動きを追跡できるほか、マウスのクリック数まで記録可能だ。Honorlockのサイトをみると、同社の試験監督システムが北アラバマ大学、フロリダ大学、サンクトペテルブルク大学などで利用されてきたことがわかる。
さまざまな試験を実施してきたピアソンVUEは、顔認証技術、ID認証、リアルタイム監視などを組み合わせたオンライン試験の監督のためにOnVUEを開発、日本でも積極的な営業展開をみせている。
ここで2019年2月に投稿された「ProctorUを使ってオンラインで試験を受けた」という2019年2月の投稿を紹介しよう。オンラインで学位取得をめざして海外の大学で通信教育を受けているという人の体験談である。
まず、事前に試験監督の予約を取り、当日はwebカメラなどを使って試験中、その監督者にずっとモニターしてもらう。当日は、①予約時間になると、サイト上で監督者とチャット可能になる、②専用ソフトをダウンロード、③専用ソフトを使って監督者に自分のPCの操作を明け渡す(PC上で開いている試験に無関係なソフトをすべて閉じる)、④webカメラを使ってパスポートで身分を証明。部屋の周囲を映して余計なものがないかを確認してもらう、⑤試験スタート――となる。
筆者はその昔、あくまで勉強のために慶應義塾大学の通信講座を受けたことがある。しかし、基本はレポート提出であり、このような本格的試験を受けたわけではない。もはや世界では、ProctorUなどを使えば、厳格な監視のもとで試験を課すことができる。それだけ海外大学の単位取得に価値があることになる。
こうした方式が「コロナ禍」で、日本でも広がりをみせている。TOEFL iBTテストと言えば、最寄りの公認テストセンターで1週間ごとに受験可能な英語スキル測定テストだが、その開発・運営をする米国非営利教育団体Educational Testing Service(ETS)は4月、自宅受験を開始すると発表した。ProctorUが提供するAI技術と人間による遠隔監視を使用して実施されるのだという。いよいよ、日本の教育現場にも遠隔監視の時代が到来
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