藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「紛争解決請負人」インタビュー 伊勢崎賢治・東京外大教授、現場から次の一手
国連や日本政府の代表としてアフガニスタンや東ティモールなどで平和構築に取り組んできた、東京外国語大学の伊勢崎賢治教授(国際関係論)。多様化する「紛争」から弱者を守ろうと発展を続ける国際法に比べ、立ち遅れている国内法の整備を訴え続け、このたび国会議員と連携してついに法案まで作り上げた。紛争地での現場感覚から日本に変化を迫り続ける63歳の「解決請負人」に、近況と信念を聞く。
――伊勢崎さんといえば世界の紛争地を飛び回るイメージですが、最近は永田町方面でも目立っていますね。
「国際人道法及び国際人権法の違反行為の処罰等に関する法制度」を築くよう政府に義務化する法案をまとめました。山尾志桜里衆院議員と協力し、法案の骨子を衆院法制局が作ってくれました。「制定を国会に求める会」を4月に山尾さんや弁護士の方々と立ち上げ、発足集会には与野党から国会議員や元議員が10数名、中谷元・元防衛相や山本太郎さんも出席しました。
紛争から人権を守るための国際的な条約について、日本が批准をしているのに、違反行為の処罰のために国内法を整備していない分野が膨大にあります。その立法作業は大変なので、まずは政府に法整備を求める議員立法を超党派で通すのが現実的かなと。この法案は政府に対し、立法のための調査と法案提出を「○年後」までに求める内容になっています。
――「国際人道法」や「国際人権法」という言葉にふつうの人はなじみがないので、そこから説明してください。
国際人道法とは、戦争の際に非人道的な行為を禁じ、捕虜や住民を保護するなど、戦時に人権を守るための国際法の分野です。こうした戦争犯罪を処罰するため、ジュネーブ条約は参加国に国内法を整備するよう定めています。そしてこのジュネーブ条約の対象は、伝統的な紛争の主体である国家から、内戦などに関わる非国家組織へと広がってきました。
こうした組織的な人権侵害では指揮者の責任を厳しく問う必要がありますが、それを戦時だけでなく平時にも広げた国際法の分野が、国際人権法です。国際刑事裁判所(ICC)を設ける条約であるローマ規程が2002年に発効し、いま締約国は約120。まず自国で裁くことが前提で、裁く意思や能力がその国にない場合にICCが管轄することになっています。
――平時の組織的な人権侵害といえば、最近では米国で白人警官の暴行により黒人が死亡した事件への批判が世界に広がっています。
米国のケースは、まさに特定の民族や人種に危害を加えるヘイトクライムをどう防ぐかという問題です。第二次大戦の前から行われていたナチス・ドイツによるユダヤ人虐殺が典型です。日本でも戦前の関東大震災の際に多くのコリアンが殺され、今も在日の人々に対するヘイトスピーチがまかり通っています。よそ事ではありません。
私は世界各地の紛争防止に国連や日本政府の代表として携わってきましたが、差別によるヘイト(憎しみ)は少数者に対する迫害と、それに反発する少数者によるテロという悪循環を生みかねません。近年は各国が自国第一主義やコロナ禍で内向きになり、排外主義が危ぶまれる中で、ヘイトクライム対策は急務です。