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ロシアの憲法改正・国民投票の真実

あからさまな不正でしか権力を維持できないプーチン支配の「終わりの始まり」

塩原俊彦 高知大学准教授

 ロシア憲法改正の是非を問う国民投票は6月25日から7月1日までの7日間実施され、2日、中央選管は投票率67.97%のうち、賛成77.92%、反対21.27%となったことを公式に発表した。

 この結果、4日から新憲法が施行された。新憲法では、大統領就任回数が通算2回に制限されるが、現大統領は対象外とされるから、プーチンはいまの任期が切れる2024年以降も立候補可能となり、最長で6年の任期を2回、12年間全うすることが可能となる。まさに、「終身大統領」へと近づいたことになる(拙稿「「神」に近づくプーチン 2036年まで大統領を継続へ」を参照)。

 こう書くと、プーチン人気は健在で、ロシアの権力基盤が盤石であるかのような誤解を与えかねない。むしろ、今回の国民投票を通じて、プーチンへの嫌悪がロシア国民に着実に広まっていることがわかる。それこそ、ここで論じたい国民投票の「真実」ということになる。

拡大憲法改正をよびかける街頭の看板=モスクワ、2020年6月21日 hodim / Shutterstock.com

「大局観」の必要性

 元モスクワ特派員として、今回の国民投票に関連する日本語の記事を読むと、プーチンの権力基盤への疑義を呈するまで踏み込んでいるのは、北海道新聞の小林宏彰特派員くらいだろうか。「プーチン氏 続投視野も求心力課題 投票結果に疑義も ロシア改憲」なる彼の記事(2020年7月3日付)は参考になる。

 これに対して、他の特派員の記事は国民投票結果という事実を伝えるだけで、その裏側で起きたプーチン人気の陰りという現象を語っていない。記事の紙幅という限界はあるにせよ、ロシアという国の今後についてもっと大局的な立場から論じてほしかったのだが、どうやらそれだけの能力をもつ特派員はいないようだ。そこで、ここでは国民投票の「真実」を語ることにしよう。

大量違反という事実

 国民投票において、大量の違反があったことが知られている。国民投票では、有権者の半数以上が投票し、賛成票が有権者全体の過半数を得ることが提案可決の条件となっている。このため、プーチンはより高い投票率と、より多くの賛成票をねらわなければならなかった。

 とはいえ、それまでの憲法(第135条)の規定を読むかぎり、プーチンは国民投票をしなくても憲法改正を実施できた。それでも国民投票に訴えたのは、「プーチン、是か非か」を問うことで、権力の誇示につなげたかったのであろう。

 まず、投票者のでっち上げと賛成票のでっち上げを同時に行えば、一石二鳥となる。こうするとどうなるかというと、投票率が上昇するにつれて賛成票が反対票と不釣り合いに増加することになる。本来、強制や票の不正がなければ、賛成票と反対票の差は投票率に左右されないから、投票率と得票率との偏差に注目すれば、強制や不正があったかどうかが推定できるのだ。

 具体的に説明しよう。図1は2000年の大統領選に際して、緑はプーチン、赤はジュガノフ共産党党首、黄色はその他候補者について調査した結果を示している。左図の縦軸では投票所を投票率が0%から1%、1%から2%というように100のグループに分けてプロットし、グループ別に各候補者の得票数を数え、横軸に投票率をとっている。右図は投票所別の候補者ごとの得票率を縦軸に、投票率を横軸にとっている。

 このときの選挙では、比較的不正がみられなかったから、左図のよう美しい「山型」になり、右図のように緑と赤が一定の投票率ゾーン(60~70%)に集中している結果になる。

 同じように、今回の国民投票について、投票所を投票率によって100グループを区分したうえで、賛成票と反対票の絶対数を計算し、それを縦軸に、横軸に投票率をとって示したのが図2の左図である。赤色で賛成票、青で反対票、紫は無効票を表している。右図は縦軸に賛否ごとの投票所別得票率、横軸に同投票率をとったものだ。

 これからわかるように、左図は尖った起伏が複雑にみられ、不正を示唆している。右図は狭い範囲の投票率ゾーンに得票率が美しく収まっていない。つまり、明らかに今回の国民投票では恣意的な操作、すなわち不正が広範囲にわたって行われたことが示されているのである。

 この説明は、2011年下院選で与党「統一ロシア」の支持票にでっち上げがあったことを証明した統計学者、セルゲイ・シュピルキンによるもので、彼によれば、今回の国民投票の実際の投票率は42から43%にすぎず、賛成票65%、反対票35%程度であったという。票数で言えば、公式発表では有権者の52.95%にあたる5770万人が賛成したことになるが、このなかには2200万票もの変則的な「怪しい票」があったことになる。

 これを間接的に裏づけているのは、コミ共和国の開票経過である。7月1日夕刻、開票率5.23%の段階で中央選管の電子パネルのデータでは、反対票68.88%、賛成票29.93%という異常に高い数値であったのに、7月2日には開票率94.15%の段階で、賛成票64.99%、反対票34.03%で、最終的に賛成票65.08%、反対票33.94%となった。投票率を意図的に引き上げる過程で、でっち上げの賛成票を積み増した可能性が高い。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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