人民中国建国以来の重大局面にどう対応するか
2020年07月09日
香港の返還記念日(7月1日)の前日、「香港国家安全維持法」(国安法)が施行された。記念日恒例の集会やデモを封殺するために間に合わせたのだろう。
これを受け、香港政府当局は、抗議のために街頭に出た1万人を越える市民に対し、施行されたばかりの法律を適用し、10人を逮捕、約300人を拘束した。
昨年の「逃亡犯条例改正案」をめぐる「200万人デモ」、さらに区議会選挙での民主派の圧勝によって、香港の市民たちは、中国政府が今度こそ牙をむいて向かってくることを承知している。このまま9月の立法会選挙を迎えれば、民主派が圧勝しかねないからだ。
中国政府として、それを事前に粉砕するための“装置”が国安法であり、それに対応する「国安護持公署」である。くわえて、今まで英国譲りの独立性を誇ってきた司法も、行政長官が裁判官を任命することになり、北京政府の意のままになった。
香港の民主派は、中国政府が今後、容赦なく彼らを弾圧する気配を感じ取っている。「香港独立」を掲げる団体をはじめ、民主派の国体が急きょ、相次いで解散した。さらに、「雨傘運動」以来の若手の指導者たちも亡命したり、運動を離れたりすることを宣言するに至っている。
7月1日の見せしめの拘束、逮捕が効を奏したのか、民主派の行動はその後、日を追って沈静化しつつある。
国安法の核心部分は、①香港独立②政権転覆③テロ行為④外国勢力との結託、に関与する人を処罰の対象としているところにある。集会やデモは「テロ行為」と見なされる可能性があり、外国人記者の取材を受けることさえ、外国人勢力との「結託」になりかねない。
しかし、香港市民、特に民主派の青年たちはしぶとい。自由と民主主義への思いは筋金入りだ。毎日新聞の報道によると、1日のデモに参加した女子学生(22)は「怖いが、怒りを我慢できず、ここに来た」と言い、他の女性(28)は「私たちの民意を踏みにじる中国政府のやり方は絶対に許せない」と憤慨している。
ごくふつうの市民が捨て身の行動をいとわない香港。国安法のあおりで、いったん退くことがあっても、いつの日か必ず再起して、魅力的な香港を復活させるだろう。
ところで、今回、中国政府が異常な早さで国安法を施行させたのには、いくつかの理由がある。
第一に、昨年の区議選での民主派の圧勝だ。驚くべきことに、香港政府や中国政府のトップは、選挙では親中派が勝つと予想していたらしい。仮に今年の立法会選挙で民主派が勝てば、香港がさらに自立の方向に向かうことを恐れたのだろう。
立法会選挙で勝つには、そもそも民主派候補が立候補できないようにすればいい。だから、国安法には候補者が「香港政府に忠誠を誓う」というルールが盛り込まれた。
第二に、今ならコロナ禍を理由に、デモや集会を厳しく規制できるという事情がある。市民の側も、コロナを理由に参加を見合わせるだろう。
第三に、国際世論からの中国批判は厳しいが、その先頭に立つ米国が、人種差別問題と大統領選挙で国内世論が分断されていることだ。中国にすれば、米国が一丸とならない今がチャンスというわけだ。
これらの理由から好機到来とばかりに、中国政府がなりふり構わず全速力で突っ走っている印象だ。
いずれにせよ、今後は香港の行政、立法、司法が中国政府の思うままになる。ついに「一国二制度」が「一国一制度」になったのである。
一国二制度の要諦は、香港は今まで通り自由主義と民主主義を貫き、社会主義の中国とは明確に異なる制度で運営されるという点にある。換言すれば、外交と防犯をのぞき、あらゆる面で自主性が尊重されるという趣旨である。今回の国安法体制が、50年間の不変を約束された一国二制度を葬り去ることになるというのが、国際社会の共通認識である。
1984年の中英共同声明によって両国間で合意されたことは、明白な国際公約であるという認識も、国際社会の共通認識だろう。この中国と英国による合意文書は。署名されて国連にも登録されている。中国は、われわれが一国二制度について言及すると、「内政干渉だ」と反発するが、今回われわれが合意文書を反古にすることを黙認すれば、そもそも国際社会が成り立たなくなる。
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