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私はこうして北京へたどり着いた~超緊張の「隔離21日間」

熱が上がらないだろうか、風邪にかからないだろうか……

キム・キヨン 東亜日報北京特派員

 『東亜日報特派員のコラムから』は、韓国の大手紙・東亜日報の海外特派員が韓国の読者に向けて執筆したコラムを日本語に翻訳して紹介する連載です。第四回は北京特派員のキム・キヨン記者。コロナ厳戒態勢の中で、北京へたどり着くまでの緊迫の21日間のルポです。(論座編集部)

東亜日報北京特派員のキム・キヨン記者
 6月19日、私は中国・北京のあるホテルで隔離21日目を迎えた。解除前日から知人たちはSNSで「小市民的甲論乙駁」を行った。「金曜日に入国したから3週間後の金曜日に解除される」 「いや、違う。3週間を過ごした翌日の土曜日0時に解除される」……

 隔離解除するかどうかは、携帯電話で発行される「北京ヘルスキット(健康状態を証明する一種の通行証)」を介して確認することができる。このヘルスキットはウィチャット(We Chant:中国版カカオトーク)で接続してパスポート番号など個人情報を入力すれば発行される。

 6月19日金曜日0時5分… 日付が変わる瞬間、ひょっとしてエラーが発生するかもしれないと思い、さらに5分待った。数秒後に緑色の北京ヘルスキットが発行された。私が中国で体験した新型コロナウイルス感染症(コロナ19)隔離は、こうして解除された。

 「ホテル隔離は事実上『ホカンス(ホテル+バカンス)』じゃないか」という話も聞くことはあった。だが、外国人が体験した海外隔離生活は受験生が21日間試験を受ける状況のようだった。

「中国に入ってくる外国人ほとんどいない」

 「あなたがこのホテルに泊まっている唯一の外国人です」

 中国に入国した5月29日、中国・遼寧省瀋陽市にあるハイアットブティックホテルを訪れた。海外から中国に入ってきた人々を14日間集中隔離する場所だ。

 隔離者の健康状態を点検するチャン・ハイボ(張海波)さんは「隔離者の大部分が海外から帰ってくる中国人だ。外国人はほとんどいない」と語った。

 このホテルは人口830万人の大都市である瀋陽の中心にある。26階の建物、二棟の大部分が客室だ。小さい規模のホテルではないのに外国人がたった1人だけとは……。そして海外で遭遇したコロナ19の余波は予想よりさらに深刻であった。

 中国政府はコロナ19発生初期から外国人の入国を徹底的に防いだ。一部特殊な職種を除いてビザ発給を完全に停止した。海外都市と北京を連結する直航便の路線も全面閉鎖した。

 やっとビザを発給してもらっても、北京に行くなら周辺都市である瀋陽や青島などでいったん降り、14日間隔離を経なければならない。以後問題がないという確認を受けてから北京に入ることができる。

 このように苦労して北京に入ってからも、再び7日間の追加隔離を行わなければならない。隔離期間だけで合計21日間だ。

 ホテルでの隔離にかかる費用は全て自己負担である。費用はそれぞれ異なっている。

 瀋陽ハイアットブティックホテルでは14日間の隔離に約7000中国元(約120万ウォン:約11万円)であった。ホテルを選ぶ選択権は無い。ホテルの水準が千差万別である中、どこへ行くことになるかは「福不福」だ。14日間の隔離で60万ウォン(約5万4千円)の水準のホテルもある。

 ホテルの割り当ては「列」により決定された。瀋陽空港で荷物を取ってから外に出て行く時、中国の公安が一列に並ばせる。列の順番通りに20名ずつ名簿を作成した後、バスに乗せた。このバスがそのままホテルへ向かった。列の人たちが少し横にズレただけで、公安は並んだ通りにバスに乗れと大声を出した。作成した名簿とバスの搭乗者が違ってはいけないのだろう。

 ホテルではチェックインと同時に隔離費用を一括払いで出せと要求された。クレジットカードは不可、現金だけが可能だった。非常用のお金まで全部はたいて宿泊費を払うと、やっと部屋を割り当てられた。紙幣を数える時は紙幣計数器まで登場した。

〈1〉隔離6日目。 隔離者たちが隔離後初めて部屋の外に出て血液検査を受けている。〈2〉隔離期間中に毎日二回、自ら体温を測定して報告した。 〈3〉ウィチャットを利用した体温報告。

ウィチャット・QRコードで「パワフル大統制」

 中国はウィチャットとQRコードでコロナ19防疫をきめこまかく行っていた。それは外国人に対しても同じだった。ウィチャットが無ければ事実上中国に入国できない。瀋陽空港に到着した時に初めて聞いた言葉も「ウィチャットはあるか?」だった。

 空港から隔離ホテルに入る時までの間、もらったQRコードは全部で6つ。瀋陽市当局に健康状態を報告するQRコード、そして同じ飛行機で入国した125人全員をウィチャットの団体チャットルームに招待するQRコードもあった。

 一日二回、体温を測定し報告する時も、ウィチャットでQRコードをスキャンして案内手続きに従えばよい。隔離が終わってからもらえる「緑色通行証」も同じだ。このように効率的統制が行われている限り政府の権限は日増しに力を増していく。

 隔離期間の間、最大の関心事は体温であった。毎日午前8~9時、午後5~6時、自ら二度測定し午後6時までに報告しなければならなかった。

 脇に挟んで測定する水銀体温計が部屋ごとに置かれていた。案内文には「体温を事実通りに報告すれば何の責任も問わない」と書かれていた。しかし、0.1度だけ上がっても不安は募った。体温計に刻まれた数字に「37」だけが唯一赤色である点も心配を掻き立てた。一度は37度が出たことがあったが、正常範囲なのにも関わらず、二度三度測定しなおし、36.9度で報告したこともあった。

 隔離期間の間、二度の検査(血液・核酸)が行われたが、検査1、2日前になると、さらに体温が気になった。朝、目が覚めるや否や唾を一度ごくっと飲み込んでみて、喉が少しでも痛ければ韓国から持って来たビタミン剤を飲んだ。額に手を乗せてみるのがクセになったし、歯磨きも1日に5、6回した。風邪を引くかと心配し、部屋が暑くてもエアコンはつけなかった。

物はいくらでも。人材サービスは不可

 隔離期間中ずっと、ホテルの部屋の外にはテーブルが置かれていた。防疫服とゴーグルなどで全身武装したホテル職員が、食事の度テーブルの上に弁当を置いて行った。廊下で職員の「朝ごはんです」という大声を聞くと、隔離者たちは戸をそっと開けて持って入るシステムだ。食べた後は、ビニール袋に入れて門の外に出しておけば回収して行く。

 部屋の中に持っていく弁当は「テーブルの上」、すべて食べ終え部屋から出す弁当は「テーブルの下」だ。ティッシュや歯ブラシ、シャンプーや石鹸のような生活必需品も「テーブルの上」から持っていけば良い。生活必需品は無駄に多くくれて全部使うことができなかった。

 半面、人間らしいサービスは全くなかった。ホテル職員は部屋の中に絶対入って来なかった。部屋の清掃や枕カバー交換などは到底望めなかった。服とタオルなどは浴室で自ら洗いスタンドにかけて乾かした。部屋の中に清掃道具がないので、残っていたティシュを水に濡らして床を拭いたりもした。

 最初の3日間は三食きちんと食べたが、その後は食事を抜いたこともあった。活動量自体が少ないため、お腹がすかなかったからだ。メニューは同じものが繰り返された。朝はギョーザと蒸しパン、お昼は揚げ物料理、夕方は焼き魚だ。

 隔離7日目の日に駐瀋陽韓国総領事館から送られてきたカップラーメンと海苔、ピリ辛シーチキンなどが無かったら、持ちこたえられなかったかもしれない。

〈4〉朝食に提供されたお弁当。 〈5〉隔離12日目、核酸検査(PCR検査)を受けるために隔離者たちが並んでいる。〈6〉隔離初日、ホテルで部屋を割り当ててもらうため列に並んでいる。 ホテル代全額を現金で支払った。

 瀋陽で2週間の隔離を終えて6月12日午後、北京へやって来た。一週間追加隔離をしなければならないので、韓国を発つ直前に隔離者を受け入れてくれるホテルをあれこれ苦労して探し予約した。

 この前日まで、北京の雰囲気はまだ良かった。55日間、感染者が発生せず、対応段階を2等級から3等級に引き下げたところだった。ところが、6月12日から突然状況が悪化した。新発地農水産物市場から始まった感染者が急速に増加し始めたのだ。

 多少緩和された海外入国隔離者管理も強化された。中国公安がいちいちウィチャット電話で「隔離規則を徹底的に遵守すること」を要請してきた。とにかく目的地である北京に入ってきたという安堵感からか、1週間の追加隔離は相対的に容易に感じた。

 3週間の隔離を終える頃、SNSで沢山の連絡を受けた。コロナ19で離れ離れになった「海外同胞離散家族」から、内示を受けて北京行きの準備をする会社員まで多様であった。

 しかし現在の状況としては、中国入国は容易ではないと感じる。3週間の隔離も大変だが、航空便とビザ発行が相変らず制限的であるためだ。6月22日に会った駐中韓国大使館関係者は「中国との交渉が肯定的に進行している」としながら「7月中には顕著な成果を出すことができるだろう」と明らかにした。(2020年6月25日 翻訳・藏重優姫)


《訳者の解説》

 私の友だちが、1年半のカナダ滞在を終了させ7月初めに韓国へ帰って来た。カナダで子どもに英語教育をさせていたが、このコロナで学校も閉鎖、自宅待機など、結局カナダで暮らすメリットがなくなったのだ。

 韓国に帰ってきてからは、2週間自宅で隔離。東亜日報の北京特派員が中国で体験したように、毎日、専用アプリで発熱や健康状態を報告させるのは、韓国も同じである。

 少し違う点もある。韓国では保健所で検査するのだが、その時から、この家族担当の職員が一人付く。そして、2、3日に一回電話がかかって来て色々と確認する。もし自宅から外出したら、この職員に通知が届き、この職員がまず逸脱した者を追跡するのだ。

 私が今回、このコロナ19事態で思い知らされたのが、韓国の住民番号制度だ。これがあるから、隔離の状況などを徹底的に調べ、統制を取ることが出来る。プライバシー侵害などの問題もあるが、悪用されない限り、市民はこの制度に対して寛容であり、使い方を心得ているように見える。個人のプライバシーを守りながら、市民共通の利益として利用するというのが、韓国が理想とする住民番号制なのかもしれない。

 つい数日前、青瓦台(大統領府)の一級公務員などの不動産が公にされた。韓国では、不動産投機による不動産の限りない値上がりが社会問題となっている中、ムン・ジェイン政権は投機用不動産に対する税金や規制などをさらに引き上げようとしている。「未だ、自分の暮らす家すら持っていない市民が沢山いるのだから、投機目的の不動産は売りはらって然り」という論調で、今回、この政策を指揮する側にある国家公務員の不動産情報の公開に至った。

 家を沢山持っている国家公務員たちは、どうにかして、自分が住まない家は売らなければいけないという雰囲気である。コロナ19事態の市民の行動統制、そして、個人の財産情報までも市民全体の利益となるなら、住民番号制度を装置として稼働させる。日本もマイナンバー制を推し進めているが、住民番号制に関して良くも悪くも先を行っている韓国は、日本が今後どうするかを考えるうえで格好の指標となるだろう。

藏重優姫(くらしげ・うひ) 韓国舞踊講師、日本語講師。日本人の父と在日コリアン2世の間に生まれる。大阪教育大在学中、韓国舞踊に没頭し韓国留学を決意。政府招請奨学生としてソウル大で教育人類学を専攻し舞台活動を行う。現在はソウル近郊で多文化家庭の子どもらに韓国舞踊を教えている。「論座」で『日韓境界人のつぶやき』連載中。