メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

前自衛隊制服組トップ、アショア断念への苦言と敵基地攻撃能力への執心

安倍内閣を4年半支えた河野克俊・前統合幕僚長に単独インタビュー

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

「本末転倒」「無責任」

 まず、6月中旬のイージス・アショア配備断念について聞いた。河野氏は納得がいかないようで、「本末転倒」「無責任」といった厳しい言葉が口を衝いた。

――イージス・アショアの配備は、北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返し、米朝関係が緊迫した2017年の12月、河野さんの統合幕僚長在任中に安倍内閣で閣議決定されました。しかしその後に米朝首脳会談があって緊張が緩和する中、地上固定式のアショア配備は地元の反対で進みませんでした。そして今年6月中旬に安倍内閣は配備を断念しました。

拡大2019年2月、ベトナム・ハノイでの二度目の米朝首脳会談=労働新聞ホームページより

 日本のミサイル防衛は、海上のイージス艦と陸上での移動式のPAC3の二層立てですが、2017年の北朝鮮の動きに日本で危機感が高まりました。イージス艦は東シナ海での中国への対応などに忙しく、その代わりになるミサイル迎撃システムを陸上にということで、韓国が導入したTHAADか、アショアかという選択になり、防衛省で厳正に選定して費用対効果も含めアショアになりました。北朝鮮の脅威から国民を守る態勢を迅速に築くための重い閣議決定でした。

 その後は二度の米朝首脳会談もあってミサイル発射は減りましたが、北朝鮮は核弾頭やミサイルを一発も放棄していない。期待していた米朝交渉も暗礁に乗り上げ、いま非常に不可解な行動もしている。脅威は2017年から変わっておらず、ミサイルがまた飛んでくる可能性があるというのが私の認識です。

 現実ではミサイルが飛んでこないので国民の危機意識は冷めてきているが、だからこそ政治のリーダーシップで、かつての脅威認識を忘れずに粛々とアショアの配備を進めるべきでした。閣議決定を覆す理由はありません。

――河野太郎防衛相はアショア配備断念の理由を、迎撃ミサイルの発射後に切り離す推進装置のブースターを配備予定の自衛隊の演習場に落とすと住民に説明してきたが、そのためには大幅改修が必要なことがわかったからと説明しています。

拡大米ハワイ州カウアイ島にある米軍のイージス・アショア実験施設=2018年1月。朝日新聞社

 アショア導入を決めた時の最優先課題はいかに北朝鮮の弾道ミサイルから国民を守るかで、ブースターではなかった。私が統合幕僚長在任中にブースターが問題になった記憶は全然ない。ブースターを自衛隊の演習場に落とすようアショアを改造するには10年、2千億円かかるという数字がはじき出され、2025年の導入予定に間に合わないというわけですが、そりゃそうですよ。アショアのミサイルは迎撃を最優先に日米で営々と共同開発してきたんだから。

 ブースターの問題に対応しようと今まで考えていたのと似ても似つかぬミサイルに改造するのは本末転倒であり、そのために弾道ミサイルを撃墜し国民を守るアショアの配備をやめたというのは理解できない。私なら地元の住民に対し、「ブースターを自衛隊の演習場に100%落とすお約束はできない、だが防空壕を造っておいて情勢が緊迫し発射が予想される事態になったら皆さんを避難させる」と誠意を持って説明します。

 イージス艦で撃ち漏らしたミサイルを陸上で迎撃するためPAC3があり、東京都心を守るため市ケ谷の防衛省にも配備していますが、撃墜したら当然破片が落ち、運の悪い方はけがするかもしれない。でもだからといって迎撃をするなとか、破片が落ちないようにPAC3を改造しろとかいう話にはならないでしょう。それと同じ事です。

――アショア配備の候補地は秋田県と山口県の2カ所でした。ブースター問題は山口県ですが、秋田県でも地元への説明にいろいろと問題がありました。

拡大イージス・アショアの配備で防衛省が「最適地」とした陸上自衛隊の演習場2カ所

 私の記憶では、北朝鮮のミサイルは今そこにある危機だから、アショア配備をできるだけ早くという要請があった。2カ所への配備で日本全土をカバーできる場所として秋田と山口が選ばれ、具体的な配備先は民間と用地交渉をしている時間はないので、周辺住民の理解を得るだけでいい自衛隊の演習地ということになった。

 だが、配備先を絞り込むのにグーグルアースに頼って地形の測量を誤ったり、住民への説明会で居眠りしたりして問題になった。地元の理解を得るための対応が混乱したことを防衛省は反省すべきだ。しかも、それで地元への説明の辻褄が合わなくなったからと言って、北朝鮮に対する脅威評価を変えたわけでもないのに、閣議決定を覆して配備をやめるというのは本当におかしい。

――今回の混乱で今後、自衛隊が国内での配備や活動に国民の理解を得るのに支障が出ないでしょうか。経緯を検証して責任をはっきりさせるべきでは。

 まあ、そこまでは私は言う立場にないので。

――アショア配備断念について、政府から河野さんに相談はなかったのですか。

 ないないない。河野大臣が本当に少数の人たちと進めたんでしょう。でも、代替策を考えずにやめたというのも無責任ですよね。

拡大

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

藤田直央の記事

もっと見る