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新型コロナは米中そして日本をどう変えていくのか

田中均 (株)日本総研 国際戦略研究所特別顧問(前理事長)、元外務審議官

 新型コロナはここ数年世界で起こっている地殻変動を加速させ、世界秩序は一層不安定化しているように見える。各国は新型コロナ感染拡大防止に躍起となり、先進国国内の分断は深まり、政府は内向きとなっている。新型コロナは第二波、第三波の感染拡大を引き起こすだろうし、新型コロナがもたらす苦難は今後何年も続きそうだ。

 国際社会においては、一方で中央集権的強権国家、とりわけ中国などの独裁的権力の強化があり、他方では主要先進民主主義国、とりわけ米国の民主主義的統治の退化がある。国際社会は分断され、国際関係は米中の対立を軸として展開していくだろう。

 新型コロナ感染のもたらす影響は誠に大きい。

米国で何が起こっているのか―トランプ再選は至難

 再選に向けてトランプ大統領には強い逆風が吹いている。最近の世論調査ではバイデン候補に10%以上の差をつけられ、接戦州でも押しなべて数%のリードを許している。このままだと再選はあるまい。

 2016年選挙ではクリントン女史は敗北を喫したが、トランプ陣営が選挙資金の半分近くをデジタル戦略につぎ込み、ビッグ・データを収集し、特定の有権者に対してSNSを使った徹底的な刷り込みを行った結果の勝利だったと伝えられる。既成政治勢力を代表したクリントン女史より全く公職経験を持たない非既成政治勢力のトランプ候補を国民は大統領に選んだ。

 今回の選挙でも劣勢のトランプ大統領が予想を覆して勝利するのではないかとみる人もいる。

 しかし2016年選挙では未知の人物に対する期待感が大きかった一方、今回の選挙では国民はトランプ大統領の何たるかを承知しており、平均支持率が極めて低い現職大統領としての選挙戦だ。

 他方、トランプ大統領はツイッター、フェイスブック双方でバイデン民主党候補の10倍の数千万人ものフォロワーを持ち、昨今「社会インフラ」と化しつつあるSNSの戦略面では優勢と言える。しかしそのようなトランプ大統領のSNS選挙戦略にも破綻が生じている。カリフォルニア州における郵便投票拡大の動きに対し、トランプ大統領が郵便投票は不正を生むとツイートしたことに対し、ツイッター社はファクトチェックの必要性を表示、トランプ大統領のつぶやきに疑義が呈された。

 そして新型コロナ感染拡大はトランプ大統領に致命的な打撃となった。

ホワイトハウス周辺で抗議デモに集まった人たち=2020年6月6日、ワシントン

 本来、経済が順調である限り現職大統領には圧倒的に有利な再選をかけた選挙であるが、コロナの終息は暫く期待できず、経済のV字回復も望めない。ミネアポリスで白人警察官が過剰な力の行使で黒人を死に至らしめた事件が発端となり全米で拡大した人種差別への抗議運動に際して、人種差別への批判より人種差別反対デモの暴徒化阻止を前面に掲げたことも、トランプ大統領への非難を強めた。

 それだけではない。ボルトン元国家安全保障担当大統領補佐官の回顧録は、再選と取引だけに関心があるトランプ大統領を描き、ロシアの選挙介入問題で有罪判決を受け収監直前の政治コンサルタント、ロジャー・ストーンの刑を免除するといった大統領の行動も強い批判の対象となっている。

 おそらくトランプ大統領は9月に行われるテレビ討論会でバイデン候補を圧倒し、巻き返しを図りたいと考えているのだろう。今後大統領への求心力が働くとすれば、対外関係の緊張、特に米中対立の帰趨が選挙に大きな影響を与えうるかもしれない。更に仮にバイデン候補が勝利してもトランプ大統領は投票の不正疑惑をはじめあらゆる材料と手段を用いて選挙結果を受け入れないといった行動に出る可能性もあろう。

 いずれにせよ米国の民主主義統治の危機と見ざるを得ないのだろう。

中国では何が起こっているのか―香港安全維持法はゲームチェンジャーだ

 新型コロナウイルスの感染拡大は中国で始まったが、中国内での感染はほぼ終息し、中国は「災い転じて福となす」と考えているのだろう。最近北京の食品卸売市場で起きたクラスターも徹底的な(北京の人口の半分に及ぶという)PCR検査と監視体制により抑え込んだ。

 中国共産党の統治を正当化しているのは高い経済成長率であり、今日、経済の一刻も早い回復に躍起となっている。2020年の先進諸国の成長率が5%を超えるようなマイナスになる中で、中国は成長率をプラス化するのはほぼ確実となっている。マスクや医療物資の支援や「一帯一路」関連で資金難に陥っている国々への救済などを通じ、確実に影響力を拡大している。

 一方、先進諸国がコロナ対策で忙殺されている時期を好機と捉えたのか、中国は香港、台湾、南シナ海などで強硬策を進めている。

 特に香港への国家安全維持法の導入はゲームチェンジャーではないかと思う。

香港国家安全維持法の施行に反対するデモ行進で、「(中国共産党の)一党独裁を終わらせよ」と書かれたビラを掲げる参加者(中央)ら=2020年7月1日、香港

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