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 新型コロナはここ数年世界で起こっている地殻変動を加速させ、世界秩序は一層不安定化しているように見える。各国は新型コロナ感染拡大防止に躍起となり、先進国国内の分断は深まり、政府は内向きとなっている。新型コロナは第二波、第三波の感染拡大を引き起こすだろうし、新型コロナがもたらす苦難は今後何年も続きそうだ。

 国際社会においては、一方で中央集権的強権国家、とりわけ中国などの独裁的権力の強化があり、他方では主要先進民主主義国、とりわけ米国の民主主義的統治の退化がある。国際社会は分断され、国際関係は米中の対立を軸として展開していくだろう。

 新型コロナ感染のもたらす影響は誠に大きい。

米国で何が起こっているのか―トランプ再選は至難

 再選に向けてトランプ大統領には強い逆風が吹いている。最近の世論調査ではバイデン候補に10%以上の差をつけられ、接戦州でも押しなべて数%のリードを許している。このままだと再選はあるまい。

 2016年選挙ではクリントン女史は敗北を喫したが、トランプ陣営が選挙資金の半分近くをデジタル戦略につぎ込み、ビッグ・データを収集し、特定の有権者に対してSNSを使った徹底的な刷り込みを行った結果の勝利だったと伝えられる。既成政治勢力を代表したクリントン女史より全く公職経験を持たない非既成政治勢力のトランプ候補を国民は大統領に選んだ。

 今回の選挙でも劣勢のトランプ大統領が予想を覆して勝利するのではないかとみる人もいる。

 しかし2016年選挙では未知の人物に対する期待感が大きかった一方、今回の選挙では国民はトランプ大統領の何たるかを承知しており、平均支持率が極めて低い現職大統領としての選挙戦だ。

 他方、トランプ大統領はツイッター、フェイスブック双方でバイデン民主党候補の10倍の数千万人ものフォロワーを持ち、昨今「社会インフラ」と化しつつあるSNSの戦略面では優勢と言える。しかしそのようなトランプ大統領のSNS選挙戦略にも破綻が生じている。カリフォルニア州における郵便投票拡大の動きに対し、トランプ大統領が郵便投票は不正を生むとツイートしたことに対し、ツイッター社はファクトチェックの必要性を表示、トランプ大統領のつぶやきに疑義が呈された。

 そして新型コロナ感染拡大はトランプ大統領に致命的な打撃となった。

拡大ホワイトハウス周辺で抗議デモに集まった人たち=2020年6月6日、ワシントン

 本来、経済が順調である限り現職大統領には圧倒的に有利な再選をかけた選挙であるが、コロナの終息は暫く期待できず、経済のV字回復も望めない。ミネアポリスで白人警察官が過剰な力の行使で黒人を死に至らしめた事件が発端となり全米で拡大した人種差別への抗議運動に際して、人種差別への批判より人種差別反対デモの暴徒化阻止を前面に掲げたことも、トランプ大統領への非難を強めた。

 それだけではない。ボルトン元国家安全保障担当大統領補佐官の回顧録は、再選と取引だけに関心があるトランプ大統領を描き、ロシアの選挙介入問題で有罪判決を受け収監直前の政治コンサルタント、ロジャー・ストーンの刑を免除するといった大統領の行動も強い批判の対象となっている。

 おそらくトランプ大統領は9月に行われるテレビ討論会でバイデン候補を圧倒し、巻き返しを図りたいと考えているのだろう。今後大統領への求心力が働くとすれば、対外関係の緊張、特に米中対立の帰趨が選挙に大きな影響を与えうるかもしれない。更に仮にバイデン候補が勝利してもトランプ大統領は投票の不正疑惑をはじめあらゆる材料と手段を用いて選挙結果を受け入れないといった行動に出る可能性もあろう。

 いずれにせよ米国の民主主義統治の危機と見ざるを得ないのだろう。

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。

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