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支離滅裂な「GO TO」の効果は一時的? 政府がやるべき合理的対策とは

日本全体での感染制御対策、「撤退路整備対策」、力のある事業者への集中支援が必要だ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

 去る7月10日、赤羽一嘉国交大臣は、各都道府県が実行している観光キャンペーンが好評である事を反映して、先般成立した補正予算の目玉である総額1兆6794億円の「GO TO キャンペーン」のうち、「GO TO トラベルキャンペーン」を7月22日から先行実施する事を発表しました(参照)。

混迷を深める「GO TO トラベルキャンペーン」

 ところが、そのわずかか1週間後の7月16日には、特に東京を中心とする新規感染者の拡大を受けて、「東京発着の旅行と、東京在住者の旅行は除く」と発表し(参照)、17日には「若者、重症化しやすい高齢者の団体旅行は支援対象から除外する…大人数の宴会を伴う旅行も対象外とする」一方、「修学旅行は教育的観点から推進する」(参照)とする方針を打ち出したものの、「若者」「高齢者」「団体旅行」「大人数の宴会」の線引きの基準が示されていない事に対する批判が広がると、その日のうちに観光庁が、団体の人数や年齢の線引きは困難としてその判断を旅行業者に委ねると発表し(参照)、予約のキャンセルが殺到して旅行業者が悲鳴を上げて(参照)批判が高まるや、2日前の20日になって対象となる予約日すら定めないまま突如今まで否定していたキャンセル料の補てんを打ち出す(参照)など、混迷を深めています。

 開始まであと2日に迫った7月20日時点においてなお、この状況であることに驚きを禁じえませんが、本稿では、現在の政府の方針によれば、とにもかくにも7月22日にはスタートすることになるこの「GO TO トラベルキャンペーン」について論じたいと思います。

「Go To トラベル」で、宿泊施設に求めるコロナ対策を説明する赤羽一嘉国土交通相=2020年7月17日、東京・霞が関

あまりにも稚拙で支離滅裂な行政執行

 まずこのキャンペーンは、政策としての良し悪し以前に、行政執行のあり方があまりに稚拙である事は、立案・実行者である政府と国交省の高官・官僚も認めざるを得ないと思います。

 あらゆる補助金制度について言える事ですが、当然ながら補助金は国民から集めた税金を使って支給されます。制度を開始するに当たっては、不公平なく公正に支給できる様、適用要件を厳格に定め、抜け穴が出来る限り存在しない仕組みを作り、疑問やトラブルが起きた場合の対処方法を決めて、これを関係者に周知・徹底するのが、通常のそして当然の行政執行のあり方です。

 ところが、この「GO TO トラベル」では、前述の通り、わずか12日前にキャンペーンの前倒しが決まり、6日前の16日になって「東京発着の旅行と、東京在住者の旅行は除く」と突如適用条件が変更になり、5日前の7月17日なってさらに、「若者、重症化しやすい高齢者の団体旅行は支援対象から除外する…大人数の宴会を伴う旅行も対象外とする」一方、「修学旅行は教育的観点から推進する」という、おそよ合理的とは思えない基準が示された後、結局その基準と判断は業者に丸投げされました。

 さらに2日前の7月20日になって突如従来否定されていたキャンセル料の補てんが打ち出されてなお、補助・補てんの対象となる旅行の詳細(「東京発着」とは厳密には何を指すのか。「若者」「高齢者」「団体旅行」「大人数の宴会」は業者の判断にゆだねられたが、結局何を指すのか。キャンセル料補てんの対象となる予約・キャンセルは何日から何日までになされたものか)が厳密に定まってないのです。

 20日現在であと2日に迫ったとはいえ、さすがに7月22日のキャンペーン開始時までには“突貫工事的”に業界団体の基準が作られるのでしょうが、だとしても、例えば「東京発着は対象外」の基準については、新幹線なら大宮駅(埼玉)や新横浜駅(神奈川)、飛行機なら成田空港(千葉)を使えば「東京以外で発着」したと偽装できるように、いくらでも抜け道は見つかるでしょう。

 「若者」「高齢者」については一定の基準を示すとして、特に複数の年齢層の人が混在している団体では、「平均年齢」、「最頻年齢帯」等の団体の何らかの代表値を使わざるを得ませんが、これもまたダミーの人を入れて平均を操作する抜け道が簡単に見つかります。特に補助を受けるために必要な宿泊施設発行の「宿泊証明書」(参照)については、適用の有無や、再発行等をめぐり宿泊施設、観光・旅行業者と宿泊客との間でトラブルが予想されますが、その様な場合の対処法や対処機関は全く定められておらず、今後も定められないでしょう。

 このような状況ですから、当然ながら、国民に対してはもちろん、観光・旅行業者に対しても、制度の周知徹底は不備どころか事実上ほとんどなされていないままです。

 いかに新型コロナウィルス感染症の流行と言う前例のない事態の中にあるとはいえ、この手の行政手続きには長けているはずの政府・霞が関の官僚たちが、なぜこれほどまでに行政執行能力を喪失していしまっているのかは謎としか言いようがありませんが、

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