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インターネット投票への道

いまだ第一歩さえ踏み出せていない日本の現状

塩原俊彦 高知大学准教授

 筆者はかつて「スマートフォンによる電子投票は実現しないのか:世界の潮流に遅れた日本 テクノフォビアを打ち倒せ」という論考をこのサイトに掲載したことがある。それからまだ4カ月ほどしか経過していないが、遅れているとばかり思っていたロシアでさえ、憲法改正の国民投票において一部の地域ながらインターネットを通じたPCやスマートフォンによる投票を実施した。ここでは、この出来事を契機に考えた「インターネット投票」実現への道について改めて考えてみたい。

拡大Shutterstock.com

ロシアの場合

 2020年6月25日から7月1日までの7日間にわたって実施された憲法改正の是非を問う国民投票において、モスクワ市とニジニノヴゴロド州の住民は6月21日までに遠隔投票申請を行い、事前登録が認められれば、インターネットを通じた電子投票が可能であった。モスクワ市の公式サイトないし国家サービスのポータルサイトを通じてプラットフォーム2020og.ruにアクセスしてSMSで送られてくるコードを入力して承認を受けて投票するというものだった。

 遠隔投票登録を済ませていたのは119万0726人で、うちモスクワ市居住者は105万1000人だった(RBC2020年7月1日付)。最終電子投票率は93.02%(110万7648人が投票)。その結果、モスクワでの賛成票は62.33%、反対票は37.67%、ニジノヴゴロドの賛成票は59.69%、反対票は40.31%であった。いずれにしても、ロシアにおいてはじめて100万人を超す人々がインターネット経由の投票を実践したことになる。

 なかには、国際宇宙ステーションに滞在するロシア人宇宙飛行士が参加したというニュースもある。宇宙からのオンライン投票参加は世界で史上初めてとなる。

拡大インターネット投票実験を伝えるロシア紙のネット報道
 実は、モスクワでは2019年9月8日の議会選でインターネット投票実験が行われたことがある。45選挙区中3選挙区についてだけ実験が行われ、1万1128人が登録し、1万人強が実際に投票した(Российская газета2019年9月9日付)。旧来の投票所に出向いて投票した投票率は21.77%にすぎなかったから、電子投票だけの投票率(92.3%)が90%を超えたことは驚異的であり、この経験が今回の国民投票でのインターネット投票につながったとみられている。

 もちろん、オンライン投票したうえで、投票所に出向いて投票するといった二重投票が行われるなど、混乱がなかったわけではない。それでも、総じてインターネット投票がうまくいったことで、ロシアでも今後、オンライン投票がより広範に実施されることが確実な情勢となっている。

新しいテクノロジーの裏づけ

 しかも、2回のオンライン投票ともに、取引履歴の台帳を意味している「ブロックチェーン」という、過去に起きた取引情報を内包した「ブロック」が連結されて一種の「チェーン」を構成する新しいテクノロジーを利用することで、すべての票が正しくカウントされていることを100%保証すると同時に暗号化による安全性を確保している。

 具体的には、2019年の場合には、カスペルスキー・ラボ・ポリスが開発したが、多数には対応できないことがわかったため、BitfuryのExonumというブロックチェーンを利用したアプリに変更した。

 ロシアの場合は、「ブツとしての投票用紙がない電子投票になると投票結果をより操作しやすくなるのではないか?」との懸念をもつ読者もいるだろう。だが、ブロックチェーンの利用により、投票所の監督者が投票用紙そのものに絡んで不正するよりもずっと不正が難しくなったとみられている。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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