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このままでは100%失敗する「行政手続きのデジタル化」

官僚の「テクノフォビア」を猛省せよ

塩原俊彦 高知大学准教授

 政府の経済財政諮問会議は7月17日、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針)を閣議決定した。新型コロナウイルスへの対応で問題になった行政手続きをデジタル化するため、今後1年間を「集中改革期間」と位置づけ、内閣官房に司令塔機能を設けて指揮するのだという。「書面・押印・対面」の慣習も見直すというのだが、このままではこの方針は100%失敗すると断言できる。

 なぜか。まず過去の政策の失敗を洗い出し、総括する姿勢に欠けているからだ。失敗の原因を明らかにし、その責任をとらせなければ、新しいチャレンジをなす緊張感は生まれない。実際には、過去の失敗に対して、その失敗さえ認めないまま、したがって、おなじみの「責任を痛感する」こともないままに改革を行うのだという。これでは、過去の教訓をいかせないまま、場当たり的な掛け声倒れに終わる公算が大きい。いや、100%失敗に終わるだろう。

 行政側が嫌がる情報公開や請願の手続きの電子化、投票のオンライン化などに取り組まなければ、安倍政権の本気度がまったく伝わってこない。ここでは、歯牙にもかけがたい「骨太の方針」を厳しく批判したい。

拡大記者会見で「骨太の方針」について説明する西村康稔経済再生相=2020年7月17日、東京都千代田区

「失われた20年」

 政府は2000年制定の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」に基づき、2001年3月、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)を設置、「我が国が5年以内に世界最先端のIT国家になること」をめざした「e-Japan 戦略」を策定した。

 その後、2008年度版の『情報通信白書』では、日本が「ICTの利用環境整備等やICT利用者のレベルにおいても、世界最高水準を達成し、最先端のインフラ、マーケット、技術環境を有する「世界最先端のIT国家」となった」と宣言している。麻生太郎首相当時の出来事であり、総務大臣は鳩山邦夫だった。「こんな出鱈目な白書をよく公表できたものだなあ」と、ある意味で感心する。

 案の定、2013年6月に公表された「世界最先端 IT 国家創造宣言」のなかで、政府は「国際的にみても、我が国は、世界最先端のIT国家としての地位を失い、ICT世界競争力ランキングにおいて、多くの国の後じんを拝している」と真実を書くまでに追い込まれた。はっきり言えば、以前の嘘がバレたので、世界最先端を再びめざすことにしたのだが、政府主導のこうした掛け声は時代錯誤な産物でしかなかった。ビットコインもブロックチェーンも登場しないし、ディスインフォメーションという言葉すらない。

 2000年に策定された「IT政策大綱」は2004年に「e-Japan」が「u-Japan」に改められたのを機に「ICT政策大綱」となったが、2019年6月、「デジタル時代の新たな IT 政策大綱」が策定される。同年12月になって、「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定された。200ページを超す力のこもった計画であったが、いまからみると、まったくお役所仕事にすぎず、再びこうした官僚が「骨太の方針」をつくったのかと思うと、背筋が寒くなる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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