藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
安倍政権で膨張する「専守防衛」 「非核」は聖域であり続けるか
その「専守防衛」が、2012年に第二次安倍政権が発足してから、どんどん膨張している。中国の軍拡と海洋進出、北朝鮮の核・ミサイル開発といった「厳しさを増す安全保障環境」が理由だ。
2014年には、閣議決定で憲法解釈を変え、集団的自衛権の行使を一部容認。米国などへの攻撃で「我が国の存立が脅かされ」る場合は、日本が反撃することを可能にし、15年に成立した安全保障法制で具体化した。
そして、冒頭で触れたように安倍首相はいま政府で、敵基地攻撃能力の保有を視野に議論を進めようとしている。後押しする提言を自民党で歴代防衛相らが中心になってまとめ、首相は8月6日、広島での平和記念式典後の記者会見で「提言を受け止め、新しい方向性を打ち出し、速やかに実行していく」と語った。
この二つの動きはともに自衛隊の役割を広げるが、二兎を追うように錯綜(さくそう)しており、まさに安保政策の膨張と表現するにふさわしい。政府は新たな安保戦略を「あらゆる選択肢をテーブルの上に並べて議論していく」(河野太郎防衛相)というが、安倍首相はじめ誰も方向性を体系的に説明できていない。
整理してみる。安保法制で政府が狙ったのは、日本の防衛にいかに米国を巻き込むかだ。
台湾有事や朝鮮半島有事に米国が出動して日本に波及しそうな段階から、米国への攻撃に日本が反撃してでもともに戦えるようにしておき、日米共同での日本防衛へ切れ目なくつなげる。同じ文脈で、2015年に日米両政府で改定した日米防衛協力のための指針では、尖閣諸島周辺で日中の艦船がにらみ合うようなグレーゾーンの状態から、自衛隊と米軍で警戒監視情報を共有し、対応を調整する仕組みを設けた。
こうした形で日米同盟を深めておいて、日本が自国の防衛で米国に頼ってきた敵基地攻撃能力、つまり「矛」の保有に踏み切れば、両者の関係は一体どうなるのだろう。