森友事件の真相に迫る新刊『私は真実が知りたい』
2020年07月30日
7月某日、神保町は雨だった。午後6時30分。待ち合わせ時間にはまだ早い。てくてくと歩いて東京堂書店まで向かい、ノンフィクションコーナーでヒマを潰しながら、目的地の洋食屋へは待ち合わせ時間、午後7時の5分前に到着した。しかしすでに全員揃っていた。僕が挨拶をして席に座ると向かいには、今をときめくジャーナリストが座っていた。NHKを退社して現在は大阪日日新聞に在籍する相澤冬樹記者である。
相澤記者は先ほど、赤木雅子さんと共著の新刊『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』を校了してきたところだと言って、少し興奮ぎみだった。赤木雅子さんは、森友学園への国有地売却に絡む公文書の改ざんを強いられたという手記を残し、自死した財務省近畿財務局職員の赤木俊夫さんの妻で、国と佐川宣寿・元財務省理財局長を相手に損害賠償訴訟も起こしている。相澤さんは、メニューに載っているビールを上から順番に全部飲むと言って周囲を笑わせていた。その日は、相澤記者が寄稿したミュージックマガジンの編集長なども参加していたので、音楽話に花が咲いたりしたが、相澤記者が言っていたことで印象に残っていることがある。
「僕は森友事件の真相が知りたいだけなんだ。よくインタビューを受けると安倍政権がどうのこうのと聞いてくる記者がいるけど、僕にとってはどうでもいいことで。僕は右でも左でもないし、どっちかというと日本好きだし右のほうとシンパシーがあるくらいだ」
という発言だった。相澤記者の嘆きは、この国が無責任な国になってしまったこと、恥ずかしい国になってしまったことの悲しみにある。何も反権力を延々と言っていればジャーナリストではない。
宴もたけなわとなり、ひとりの参加者が相澤記者に著書を渡してサインを求めた。僕も相澤記者にサインをもらったことがあるのでわかるのだが、必ず、名前と一緒に「生涯一記者」「取材は愛」と書き添える。僕は、この取材は愛という言葉が、胸に響いた。
僕も記者となってそろそろ16年になろうとしているが、年々取材がしにくくなっているのを感じる。現場に出ると、マスコミ不信が募っているのを肌で感じることができる。そこには、個人情報保護などの理由もあるのだろうけど、取材に愛があるのか? と取材対象者から問われているような気になることもしばしあることは確かだ。今まで、愛のない取材で、取材対象者をぞんざいに扱ってきたツケが回ってきたのだろうかと、考えることがある。
相澤記者が今、国民から支持されているのは、NHKという巨大組織からハシゴを外されても、自分のジャーナリズムを貫き通そうとしたことと、「取材は愛」という精神でずっとやってきたことが、赤木雅子さんを動かし、遺書のスクープに結実したことが大きな要因なのではないかと僕は思っている。また、相澤記者はよく「ファクトで勝負しなきゃ」とつぶやくことがある。それは真実を知りたいという欲求がイデオロギーよりも勝っている証左なのだろうと思う。
この日の会合はこんなふうにして終わったが、相澤記者は多忙を極めてちょっと疲れも見えた。
そもそも僕が、相澤記者と知り合い、行動を共にできるようになったのは、旧知のある新聞社の先輩が相澤記者と行動を共にするたびに僕に声をかけてくれたからだった。僕はただ横にいただけで、相澤さんとはそんなに話す機会はなかったのだが、ちょっとした密着取材と言えば、そう言えなくもない。
7月某日、旧知の記者と相澤記者は映画プロデューサーの奥山和由さんと偶然某所で会い、昼食をご一緒することになった。話は当然映画の話題になる。奥山さんが
「新聞記者は観ましたか?」
と相澤記者に問うた。すると相澤記者は、ネタバレになるので詳細は避けるが
「観ました。あれは左翼の悪いところがもっとも最悪なカタチで
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