沢村亙(さわむら・わたる) 朝日新聞アメリカ総局長
1986年、朝日新聞社入社。ニューヨーク、ロンドン、パリで特派員勤務。国際報道部長、論説委員、中国・清華大学フェローなどを経て、2017年7月よりアメリカ総局長。
「溜飲下げる」様相も 人種偏見解消への議論に結びつくかがカギ
少なからず数の米国人が真っ先に思い浮かべた事件がある。
「エメット・ティル事件」だ。
1955年、南部ミシシッピ州で14歳の黒人少年エメット・ティルさんが、買い物に訪れた雑貨店で店主(白人)の妻(同)に口笛を吹いたとして店主が激高。ティルさんを拉致してリンチを加え、殺害した惨劇だ。店主らは逮捕されたが、白人男性の陪審団は「無罪」の評決を下した。その後、店主らはメディアに殺害を認めた。
南部の多くの州では1960年代まで異人種間の婚姻を禁じる法律が残るなど、白人女性と黒人男性の接触が長らく犯罪視されてきた。エメット・ティル事件は、事実究明より前に条件反射のように「黒人男性=加害者、白人女性=被害者」とみなす「白人特権」の理不尽を白日の下にさらした。
一方、ミネアポリスの事件で改めて問題視されたように、現在でもなお黒人は白人より3倍の比率で警官に殺されている。
つまり、白人女性が「黒人の男に襲われた」と通報すれば、その黒人男性は白人男性の場合よりもひどい扱いを警察から受け、運が悪ければ身体や命にかかわる事態になりかねないという社会通念の闇が、この21世紀の米国においても存在するのだ。
通報されたクーパーさんはハーバード大学を卒業し、今は科学専門の文筆業・編集者をしているエリート知識人だった。だが親族は米メディアに「もし警察が出動していたら、彼の学歴や職歴は何の助けにもならなかったでしょう」と話している。
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