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立国両党による「大民主党」の行方とれいわ新選組再浮上の道

衆院解散・総選挙は近い?「大民主党」の狙いは。下降モードのれいわはどうなる。

大濱﨑卓真 選挙コンサルタント

 「論座」にてこれまで、選挙に関連する記事を何度か執筆させていただきました。衆議院の解散総選挙が近いとの観測もある中で、与野党問わず各党・各候補者の、永田町や地元での動きをダイナミックに捉えつつ、中立的かつ全方位的に観察してそれぞれの狙いを解説していく「定点観測」的な記事を連載させていただくことになりました。できる限り多くの事象を取り上げ、様々な風を追いかけられるよう寄稿していきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

国会で会談した立憲民主党の福山哲郎幹事長(左)と国民民主党の平野博文幹事長(右)=2020年7月29日、

「大民主党」の成立にはガス抜きが必要

 立憲民主党と国民民主党の合流協議、いわゆる「大民主党」の協議が大詰めを迎えています。立憲と国民の合流が、次期衆院選で与党と対等に戦うための必須条件というのは永田町の共通認識で、あとは条件面での折り合いをどうつけるのか、そして個別の選挙区における候補者調整に関心が高まっている状況です。

 原発をはじめとするエネルギー政策など具体的な調整が残っているのも重要な論点ですが、一番の問題となっているのが党名をどのように決めるのかということです。しかしながら、これらの調整は、総選挙に向けての選挙戦略だと筆者は考えています。

 その理由の一つは、地方のガス抜きがまだまだ不十分なことです。立憲民主党はサポーター制度の上位互換である党員制度が始まり、全国的な組織化が始まっています。一方で、今年4月の統一地方選挙でも順当に地方議会の議席を獲得した立憲民主党の地方議員は、選挙での成功体験が多く、政党名にこだわる傾向があります。言い換えれば政党の看板をすげ替えて戦うことに抵抗のある政治家が多いのが実情で、地方を中心に中央主導の合流協議を歓迎しない向きが大きいです。

 国民民主党に関してはさらに党勢が厳しいですが、旧同盟系の労働組合から選出された組織内議員を中心に、合流に不安を覚える議員が多くいます。選挙区調整におけるパワーバランスの問題もあり、ここはプロセスをしっかり踏んでガス抜きを進めながら合流手続きを進めることで、各所での軋轢を減らす狙いがあると考えられます。

合流の勢いを総選挙にぶつける?

 もう一つの大きな理由としては、これは筆者の本命でもありますが、合流後の「大民主」成立後の勢いに乗じて選挙戦を戦えるかどうか、というスケジュールの問題があります。

 仮に「大民主」が成立することになると、新党の党名や人事、選挙区調整などが活発化することで、政治ニュース欄で連日取り上げられる状態になり、一時的とはいえメディアジャックできる環境が整います。そうした状況下で無党派層をしっかりと取り込み、選挙戦に向けて野党第1党の存在感、選挙モードを醸し出すことができれば立憲・国民の狙い通りとなります。

 とはいえ、合流からのメディアジャックが功を奏して一時的に野党支持率が高まったとしても、コロナ禍という特別な状況でもあり、おそらく数週間から長くても2カ月程度で落ち着きをみせるでしょう。

 前回の衆院選では、小池百合子・東京都知事が立ち上げた希望の党に一時期注目が集まったものの、小池知事の「排除」発言などで急速に希望の党の支持率が失われたことは、国民民主党所属議員の記憶にはまだ新しいでしょう。できる限り野党支持率がピークの状態で総選挙を戦いたいと考えるのが定跡であることから、性急な合流手続きをせずに「溜め」をつくって合流への期待を引き出してから新党設立、という流れを狙っているともみられます。

会談を終え、取材に応じる立憲民主党の福山哲郎幹事長(左)と国民民主党の平野博文幹事長(右)=2020年7月29日午前、国会内

下降モードのれいわ新選組

東京都知事選に敗北し、質問に答える山本太郎氏=2020年7月5日、東京都新宿区

 一方、前回の参院選で躍進したれいわ新選組の党勢が、この数週間で完全に下降モードに入っています。都知事選での山本太郎代表の得票が「業界予測」であった60万票より大きく伸びなかったことにくわえ、前回参院選でれいわ新選組公認候補として比例区から立候補した大西恒樹氏が7月3日に自身の配信するYouTube動画で、「こういう話多分政治家怖くてできないと思いますよ。命の選別するのかとか言われるでしょ。生命選別しないと駄目だと思いますよ、はっきり言いますけど」と発言をしたことが党を揺らしています。

 客観的に見て、党勢の下落は、この発言が影響を及ぼしたというよりも、この発言に対する山本代表の処分の方向性が朝令暮改のごとく変わったり、そもそも処分についての定めがない規約をこの時点で作ったりという、党内部のゴタゴタぶりが明らかになったことが要因だと考えます。

 大西氏への処分決定(離党届を受理せずに除籍)が党メンバーの中でも満場一致とはならなかったことや、れいわ支持層の中でもこの処分プロセスに対して不信感、不安感が拡大していることが、SNSの投稿などからも顕著に伺えました。

 さらに、7月25日には、前回参院選でれいわ新選組公認候補として東京選挙区から立候補した野原善正氏が離党を表明しました。大西氏の処分に関連して党運営を批判するツイートをした野原氏は、参院選(東京都選挙区)で約21万4千票と国民民主党の水野氏(約18万6千票)を上回る次々点でした。こうした一定の支持者層がいるメンバー2人の相次ぐ離脱は、れいわ新選組の後退を印象付けたといえます。

今年に入って浮上した三つの課題

 「(次期衆院選に)100~131人の公認候補を擁立する」と山本代表が意気込んでいたれいわ新選組ですが、筆者は特に今年に入ってから大きく三つの課題が浮上してきたと感じていました。

プレゼンスを発揮できず

 一つ目は、今年の通常国会において、党のプレゼンスを発揮できなかったことです。そもそも参院議員2人のみでは国会で存在感を出すことは難しいですが、れいわ新選組にとっての誤算は、新型コロナの感染拡大によって国会論戦や報道の基軸がコロナ対応と変わってしまったことでしょう。その結果、社会的弱者対策や消費税減税といったれいわ新選組にとって「十八番」の主要政策に、まったくと言っていいほど注目が集まらなくなりました。

 先の参院選で「特定枠」に舩後靖彦、木村英子両名を充てた選挙戦略は、裏を返せば、国会論戦に強い印象を残すことのできる山本代表を質疑に立てられないという弱点を抱えていることは自明だったはずですが、参院選から1年が経過した現在も、この弱点を克服する山本代表らしい奇策は見受けられません。

党内ガバナンスに課題

 二つ目は、まさに今回の大西氏発言問題に端緒を発する党内の「ガバナンス」の問題です。

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