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日本の愛護動物たちの運命は、環境大臣・小泉進次郎にかかっている

セクシーな決断で、レガシーを残せるか

塩村あやか 参議院議員

 秋には内閣改造があるとの声が、永田町で末端の席に座る私の耳にも聞こえてくる。

 「そうか。解散が近いのか」。解散前に内閣改造をするのは当然である。新型コロナ対応が後手後手に回った内閣ではいくら野党がまとまりに欠ける中でも、接戦区で苦戦する。だったら、内閣の顔ぶれを刷新し、国民に期待感を抱かせる。コロナの情勢を見極め、追い込まれる前に一気に解散できる体制を整えておくこと迄はさすがに後手後手にはしまい。

 「小泉進次郞氏が大臣だったから、ここまで踏み込めた」。

 私はそう思っている。その内容は「動物愛護法改正」に伴って行われる「省令改正」だ。昨年の6月に動物愛護法の改正が行われ、動物愛護家にとって悲願だった「数値規制」の導入が実現した。超党派で取り組んだ議員立法であるが、この段階では小泉進次郞氏は殆ど関係ない。まだ大臣でもセクシーでもなかったからだ。

 法律に「数値規制」が盛り込まれることにはなったが、肝心のその数値は法律で定めるのではなく、検討会を経て省令で決定される。つまり、議員立法の法改正と違い、議員がダイレクトに決めることができず、環境省(政府)が主導することになる。ここからが環境大臣に就任した小泉進次郞氏の出番である。

記者会見に応じる小泉進次郎環境相=2019年11月8日、国会記者会見に応じる小泉進次郎環境相=2019年11月8日、国会

猫は鳥かご、ピンクの生き物……。横行する「虐待飼育」

 そもそも数値規制とは何かを簡略に説明をしたい。

 近年問題視されている「虐待飼育」をご存じだろうか。殴ったり蹴ったりといった分かりやすい暴力ではなく、「狭いケージに閉じ込める」「餌や散歩を十分にしない」「不潔」など、いわゆる「ネグレクト」や手抜きで動物を苦しめることを一般的には指す。

 動物愛護先進国ではどういう飼育管理状態が動物虐待に当たるのかを「数値」で示し、動物たちの健康と福祉を守っている。その数値規制が先進国であるはずの日本にはないのだ。

 分かりやすい例を紹介したい。

 私が都議会で取組んだ劣悪ペットショップ(以下P)の件である。15年近く劣悪環境で動物が展示販売をされており、近隣でも問題視されていた。相談を受け現地に足を運ぶと、ペットショップ周辺はハエ、虫、そして表現できない程の異臭。当時私が本会議で「ハエのカーテンをくぐり店内に入った」と述べている通りである。

 店内に入って再度ビックリした。ハエや虫が飛び交い、多数のケージが積み上げられ、犬が収まっている。猫は鳥かごに入れられていた。ピンクの生き物がいた。皮膚病で被毛が抜け落ちたマルチーズだった。もちろん、値札がついて店頭に並んでいた。絶句した。ここは本当に東京のペットショップなのか、と。

 この状態を目の当たりにした私は、すぐに動物愛護法を基に改善を指導するよう東京都に伝えた。場合によっては第一種取扱業の登録取消しも検討すべきとも。

 -ところが-

指導を60回以上重ねなければ……。数値規制なき法のもとで

 このPに対して東京都は指導を重ねるしかできなかった。結果として1年後、記録が残っているだけで60回以上もの指導を重ねてようやく業務停止命令となった。その理由を議会で追及した結果、「何が動物虐待にあたるのか明確かつ、具体的数値が法(省令にも)にはなく、判断ができなかった。具体的数値が必要であった」との弁明が返ってきた、という訳だ。

 この業務停止命令はペットショップに対しては日本初の快挙でもあった。つまり、日本中で発生している、劣悪環境下での虐待飼育や繁殖がこれまで大した問題とされてこなかったことに問題があることも明らかとなった。

 では、どうするか。

 まず、自治体が60回も指導を重ねることなく、諸外国のように虐待を迅速に判断できる仕組みを作らねばならない。私をはじめ多くの議員・愛護家が要望をし、昨年の法改正でようやく数値を定めることが明文化された。

超党派議連vsペット業界。数値をめぐる攻防

 話を最初に戻そう。昨年の動物愛護法改正の直後に小泉進次郞氏が環境大臣に就任をする。まさに動物愛護法最大の難関かつ、悲願と言われる「数値規制」が省令制定されるタイミングでの就任である。

 私達国会議員の超党派議連は政府に対し、各国の事例を調査し、専門家や優良業者の意見を参考にして、必要な数値規制案を提出した。どれも、決して厳しすぎる内容ではない。ペットの健康や福祉を勘案すれば、当然の数値である。例えば、「犬の繁殖は1歳以上6歳まで、年1回とすること(雌)」「ケージの大きさは小型犬で2平方メートル以上」「従業員の人数は15~25頭/1人」であり、各国と比較をしても概ね妥当なラインを選択した。

超党派動物愛護議連に参加する塩村あやか氏=塩村氏提供超党派動物愛護議連に参加する塩村あやか氏=塩村氏提供

 しかし、ペット業界側の反発は相当なものだった。現状の劣悪飼育を追認してしまうような案を政府へ要望。「超党派議連案が通ったら、ブリーダーが壊滅する」と反発を強めているが、この程度で業界が壊滅をするのであれば、そんな酷い業界に命を扱う資格がないのは明らかだ。

 しかし、これに呼応するように、検討会では「(規制を強めると)値段が上がったりする」などと委員が発言。環境省も「規制よりも自主性に任せては」と発言し、全国の愛護家から顰蹙を買った。これが、日本の政治の現実である。

熱意の愛護家、進次郞大臣の驚きの言葉

 業界側のロビー活動も余念がないが、愛護側も黙ってはいない。超党派議連はもちろん、立憲民主党も動物愛護議連を設立。議連案を採用するよう小泉大臣に申し入れを行った。また、多くの動物愛護団体が大臣や環境省へ何度も陳情を重ね、関係各所にハガキアクションやSNS発信を根気強く行っている。本日(7月28日)私の事務所に届いたハガキは厚さ20センチもあった。ここまで愛護家が熱意を燃やすのは、やはり「動物にとって悲願の数値規制」だからである。

 ここまでは、よくある風景である。

 だが、今回は大臣の反応が違う。これまでは、目の前で陳情を笑顔で受けて写真に収まるだけの大臣が多かった。ただ、それだけだった。しかし、小泉大臣は事前の勉強をして陳情に臨み、「何が問題なのか」「どうすべきなのか」を私達に真剣に問う。さらに、こうハッキリと述べたのである。

 「劣悪業者に明確にレッドカードを出せるような基準にします」と。

 一同驚いた。ここまでハッキリと明言をした大臣はこれまでにいない。期待できる-か!?

小泉進次郎環境大臣への申し入れ。左は塩村あやか氏=塩村氏提供小泉進次郎環境大臣への申し入れ。左は塩村あやか氏=塩村氏提供

数値規制案に潜んでいたレトリック

 7月10日に環境省は、検討会で数値規制案を発表した。その前日に国会議員には環境省より事前説明がされ、多くの議連案が採用されていた。正直、私も想定以上で驚いた。

 しかし、である。

 よく読み込んでみると、大事な部分で

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