司法の独立を失った香港は国際金融都市から中国の金融都市に変わる
許成鋼・香港大名誉教授に香港の将来、コロナ後の中国と世界経済を聞く
吉岡桂子 朝日新聞編集委員
ドルペック制度の行方は

Ronnie Chua/shutterstock.com
――香港は、米中対立の現場にもなっています。トランプ政権は、米ドルと香港ドルの自由な交換まで制限し、香港ドルの動きを米ドルに連動させるドルペッグ制度にまでゆさぶりをかけるでしょうか。人民元と違って、国際市場で自由に取引できる香港ドルを擁する香港市場は、中国マネーを国際市場につなぐ重要な舞台です。
香港のドルペッグ制度が米国との関係に支えられていることは事実です。ただ、米中の対立は深まっていますが、米国がドルペッグ制度を壊すことはないと思います。中国経済のみならず米ドルを基軸とする国際金融市場、ひいては国際経済の大混乱につながるからです。とはいえ、米国経済との「デカップリング」(切り離し)が進めば、中国大陸や香港と米国の経済の連動性が弱まる可能性がある。すると、(香港当局が)香港ドルを米ドルだけに連動させず、ユーロや円、人民元などと連動させる「通貨バスケット」へ移行するかもしれません。
――中国政府・共産党は、香港が国際金融都市でなくてもいいと割り切ったのでしょうか。
詳しくはわかりません。ただ、私は中国の体制を「分権式権威体制」と呼んでいます。中国は中国共産党が一党支配する中央集権体制にもかかわらず、かなりの程度は地方政府や縦割りの省庁・党組織が競い合って政策を実行しています。香港問題についても、関係者が競い合ってリーダーが好む方向の政策を打ち出している面はあるのではないでしょうか。
静かな環境を求めてロンドンに

許成鋼・香港大学名誉教授=2014年2月、香港大学、包瑾健氏撮影
――なぜいま、研究の拠点を香港からロンドンへ移すのですか。
もともとハーバード大学で経済博士号を取得した後、英国に渡り、1991年から2009年までLSEで教鞭をとっていました。香港大学に移ったのは、大きく動く中国経済を研究するには、現場が近い方が良いと考えたからです。しかし、すでに名誉教授に退いていますし、ここ数年の香港をみていて、静かな環境で研究生活を送りたいと思うようになりました。
今回の法律(香港国家安全維持法)の施行は知りませんでしたが、北京が現状を変えようとしては、それに香港の人々が同意しないということが続いています。昨年の大規模なデモにつながった逃亡犯条例にかかわる問題については、多くの市民が香港に高度な自治を認めた「一国二制度」の核心である司法の独立まで脅かされるのではないかと心配し、反対しました。
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