藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「新たな安保戦略」目指す安倍首相に 「国民の理解を全力で得る」要望も
自民党の国防部会と安全保障調査会が7月31日、政府への「国民を守るための抑止力向上に関する提言」をまとめた。安倍晋三首相が6月半ばの記者会見で唐突に、「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」として、敵基地攻撃能力の保有も視野に政府で議論を始めると発言。それを受けて自民党も議論を急いだ。
首相を後押しするこの提言の中身を読み解いてみる。
提言にあたっては、自民党の歴代防衛相らがメンバーとなった「ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛相)が、谷内正太郎・前国家安全保障局長や河野克俊・前統合幕僚長といった有識者からのヒアリングもふまえ、たたき台を作った。「党からの様々な提言を聞きたい」という安倍首相の希望による。
そもそも、なぜ今このような議論が必要なのか。きっかけとなった安倍首相の記者会見での発言は、陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の突然の配備撤回を逆手に、その穴埋めを飛び越えて「安保戦略の新たな方向性」へ風呂敷を広げたものだった。だが、唐突な発言はいかにも舌足らずで、提言はまずそこを補っている。
北朝鮮は、米朝協議が(2018年から)行われる中で弾道ミサイルの発射がなかった時期はあるものの、わが国全域を射程に収める数百発を保有し、実戦配備する現実は継続していた。令和元年以降、新型を含む弾道ミサイルの発射を繰り返し、関連技術や運用能力の更なる向上を図っている。
さらに、各国は従来のミサイル防衛システムを突破するようなゲームチェンジャーとなりうる新しいタイプのミサイル開発を進めている。中国やロシア等は極超音速滑空兵器の開発を進めており、北朝鮮も低空かつ変則的な軌道で飛翔可能とみられる発射実験を行っている。
また、従来のミサイル防衛で念頭に置かれていた弾道ミサイルのみならず、極超音速の巡航ミサイルや大量の小型無人機によるスウォーム(群集)飛行といった新たな経空脅威への対応も喫緊の問題となっている。
自民党では政務調査会が2017年にも同種の提言をまとめている。当時は北朝鮮が核実験や日本近海への弾道ミサイル発射を繰り返しており、北朝鮮への対応が急務だとしてイージス・アショアの導入が掲げられた。それに対し今回は、「ミサイル脅威の増大」として中国やロシアも名指しし、各国のミサイル開発が「従来のミサイル防衛を突破しうる」点を強調している。
そのうえで、「抑止力向上に関する提言」として、以下の三点をあげている。
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