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森友事件 「悲恋の仇討ち物語」を「政治」から切り離そう

「安倍政権への是非」は棚上げして、まずは真相究明を

相澤冬樹 大阪日日新聞記者

 書店を訪れると、まず新刊本のコーナーに目が行く。赤木雅子さんとの共著『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』が置いてあるかどうかが気になるんだ。多くの書店さんは、注目本のコーナーで平積みしてくれている。ありがたい。そして、隣には必ずと言っていいほど、『女帝 小池百合子』が並んでいる。いや、注目度から言えばはるかにあちらが上だから、『女帝 小池百合子』の隣にその半分くらいのスペースで『私は真実が知りたい』が置いてあると言うべきなんだろう。

拡大書店で『女帝 小池百合子』と並ぶ『私は真実が知りたい』

夫を殺したのは朝日新聞か、財務省か

 赤木雅子さんを知らない? まだまだ知名度が足りないなあ。大方の日本人にとって「まさこさん」といえばまず「皇后雅子さま」だろう。次に歌手の森昌子さん。字は違うけど読みは同じだ。では赤木雅子さんとは? 公文書の不正な書き換え=改ざんを上司に無理強いされ、それを苦に命を絶った財務省近畿財務局の職員、赤木俊夫さんの妻。三回忌を終えた今年3月、夫が書き遺した「手記」を公表し、真相解明を求め国などを相手に裁判を起こした。そして一連の経緯を本にまとめた。それが『私は真実が知りたい』だ。

 ベストセラーの隣に並べてもらえるのは、目立つという意味ではありがたい。でも、なぜ『女帝』の隣? 同じジャンルと思われているんだろうか? 『女帝 小池百合子』は東京都知事、小池百合子氏の知られざる姿に迫る「政治」ジャンルの本だろう。では『私は真実が知りたい』は? これも政治の本? 少なくとも著者の赤木雅子さんにそのつもりはない。私も同じだ。

 では、この本はどういう本なのか? まず前半は、愛する人を奪われた女性の悲劇だ。夫婦の時間を大切に、20年以上幸せに暮らしてきた二人。ところがある日、夫は職場で不正行為を上司に命じられる。「そんなことはやるべきではありません」と抵抗したけど、上司たちに無理矢理やらされてしまう。そのことを悔やみ、職場を変えてほしいとお願いしたのに、実際には不正を指示した上司の方が異動して、自分だけ職場に残された。

 不正をすべて自分のせいにされるのでは? 夫は心を病んで働けなくなる。そのうち、不正に対する捜査の手が迫ってきた。本当は上司や東京の上部組織の指示なのに、自分一人に責任を押しつけられるに違いない。恐怖のあまり夫はおかしな言動を繰り返すようになる。妻は、愛する夫がどんどん「壊れていく」のを目の当たりにするけど、どうすれば助けられるのかわからない。不正はとうとう朝日新聞で大きく報じられた。

 なのに職場は夫に何も手を差し伸べない。仲良しだった同僚からの連絡もない。孤独と絶望の中で、夫はついに自宅で命を絶ってしまった。帰宅してその姿を見つけた妻は、冷たくなっていく夫の体を抱きながら「これでやっと楽になれるね」とつぶやいた。ここまでが本の前半。ロミオとジュリエットばりの悲しい結末に終わった二人の悲恋。だが、物語はここで終わらない。

 夫を殺したのは誰か? 職場の同僚は「朝日新聞や!」という。でも雅子さんは思った。「違うでしょ。殺したのは財務省でしょ」。新聞は不正の事実を報じただけ。不正をやらせたのは職場の上司たち。どう見たって殺したのは職場の上司たちだ。

 ところがその上司たちは、夫の死の翌日、弔問に訪れた際に「遺書はありませんか?」「遺書を見せて下さい」と失礼なことを聞いてくる。「何かヤバイことが書かれているんじゃないか?」と不安だったんだろう。実際、夫の「手記」には不正な改ざんを誰にどのようにやらされたかが克明に書かれていた。上司たちは「それは公表しないほうがいい」「マスコミは怖いから近づけない方がいい」と言いつのった。確かに、押しよせてくる記者たちが怖かったから、雅子さんは上司たちの言うとおり、手記を公表しなかった。

 雅子さんが言いなりになりそうだと見るや、上司たちは手のひらを返したように近づいてこなくなった。夫を殺した公文書の改ざんはなぜ行われたの? 誰がどのようにやらせたの?  夫が書き遺したことは真実なの?  雅子さんは疑問に思ったが、夫の職場から納得できる説明はない。自分は馬鹿にされているんじゃないか? 夫を亡くした女性が一人、何もできないと高をくくられているんじゃないか?  財務省と近畿財務局への不信感はどんどん募っていく。

 ある弁護士との出会いを機に雅子さんは決断する。夫の手記を公表しよう。国などを相手に裁判を起こし、真実を明らかにさせよう。手記公表の役目を託されたのが私だ。夫の死の真相を明るみに出し、責任者の謝罪を勝ち取り、無念を晴らす。雅子さんの「仇討ち」が始まった。これが後半の物語だ。

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筆者

相澤冬樹

相澤冬樹(あいざわ・ふゆき) 大阪日日新聞記者

大阪日日新聞(新日本海新聞社)編集局長・記者。1962年宮崎県生まれ。1987年NHKに記者職で入局。山口放送局、神戸放送局、東京報道局社会部記者、徳島放送局ニュースデスク、大阪放送局(大阪府警キャップ)、BSニュース制作担当などを経て、2012年大阪放送局、2016年司法キャップ。2018年8月NHKを退職。著書に『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)、『私は真実が知りたい』(共著、同)がある。