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1年以内に中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験へ

通貨決済がデジタル化で大きく変わろうとしている

塩原俊彦 高知大学准教授

 2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太の方針)のなかに、気になる一文がある。「中央銀行デジタル通貨については、日本銀行において技術的な検証を狙いとした実証実験を行うなど、各国と連携しつつ検討を行う」というのがそれである。

 この項目は原案になかったものであり、7月20日、日銀は早速、決済機構局決済システム課に「デジタル通貨グループ」を設置したことから、急ごうとする本気度合いがわかる。「骨太の方針2020」は基本的に今後1年間の政策課題を示したものだから、おそらく1年以内に「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)の実証実験が実施されることが確実になったと言えよう。

CBDCとは何か

 筆者の多岐にわたる論稿を丁寧に読んでくれている読者であれば、「中国のデジタル通貨実験:金融覇権への重大な一歩か:特許をもつ仕組みを外国に輸出し、金融制度への中国の影響力強化狙う」という記事が6月17日付でアップロードされていることを覚えているかもしれない。そのなかで、「デジタル通貨電子決済」(Digital Currency Electric Payment, DCEP)にかかわる中央銀行主導のCBDCについても紹介した。

 ここでもう一度CBDC(Central Bank Digital Currency)について簡単に説明してみよう。「図 デジタルマネーの分類」に示したように、CBDCには2種類が想定できる。リテール向けとホールセール向けである。ただ、多くの場合、とりあえずホールセールCBDCが実証実験の対象となっている。すでに実験を開始した中国も、e-kronaを導入しようとしているスウェーデンも同じである。

拡大図 デジタルマネーの分類

 ここではスウェーデン中央銀行のリクスバンクが6月に公表したばかりの報告書(Second special issue on the e-krona)にある論文(「デジタル時代のe-krona発行の根拠」)をもとになぜCBDCの導入が検討されているかを説明しよう。

 論文では、中銀はスウェーデンの通貨システムの安定性と効率性を維持する役割を果たしてきたが、「問題は、デジタル時代において、追加的な措置なしに安定性と効率性を保証できるかどうかということだ」と指摘されている。

 社会のデジタル化に伴うリスクとして、①現金利用の少なさがデジタル・アクセスをもたない特定グループに困難を与えるリスク、②決済サービスの大部分が少数のグローバル大企業に集中しているため、国や地域に脆弱性をもたらすリスク――などがある。とくに、中銀が懸念しているのは、決済システムの安定性と効率性の保証である。中銀が「通貨の番人」であるとすれば、通貨決済がデジタル化で大きく変わろうとしているいま、中銀自体が対策を講じる必要があると考えているわけだ。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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