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中国の衛星測位システム「北斗」の全面稼働をどう評価すべきか

中国優位の構図を逆転できる可能性は

塩原俊彦 高知大学准教授

 中国版の衛星測位システム(北斗, BeiDou)の配備が半年前倒しで完了した、と政府機関が正式に発表した。2020年6月23日、北斗航法衛星55機目の打ち上げに成功したのである。2018年12月から全世界を対象に運用を開始していたが、7月末頃には完全に機能するようになる。

 ここでは、同じ衛星測位システムである、米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のガリレオ、日本のみちびき、インドのNAVICおよび北斗について比較しながら、北斗の全面稼働を評価してみたい。

拡大Joinmepic / Shutterstock.com

各国別の状況

 まず、各国別の衛星測位システムの状況について紹介したい。主に参考にしたのは、二つの文献(「What are various GNSS systems?」「What's The Differences Between the 5 GNSS Constellations?」)である。

 重要なのは、衛星測位システムが軍事利用目的で開発された点である。だからこそ、米国のGPSに対抗するために、中国やロシア、さらにインドまで、独自の衛星測位システム網の構築がめざされたわけである。欧州のガリレオをあくまで民間・商業利用のためのシステムであり、日本のみちびきは災害時活用などを名目にしている。

 中国の場合、2016年12月、中国国務院が発表した「第13次5カ年計画期間における情報化国家計画」のなかで、「軍民融合とデュアルユースのグローバル移動通信衛星システムの建設を加速する」としたうえで、中国は「宇宙領域における軍民融合を進め、統合された宇宙と地球のサイバースペースインフラストラクチャを構築する」(天地一体网络空间基础设施)としている。北斗全球航法衛星システム(GNSS)の「情報化プログラム」が主に中央サイバースペース委員会事務局、中央軍事委員会(CMC)装備開発部(EDD)、CMC統合幕僚部によって運営されている点がとくに重要な点である。

[米国のGPS]

 GPSは1978年に運用を開始し、1994年に地球規模での利用が可能となった。軍用に開発されたが、後に民間に公開された。現在、GPSは33の衛星を持っており、そのうち31が軌道上にあり、運用されている。衛星は米空軍によって維持されてきたが、2020会計年度(2019年10月~2020年9月)の国防予算の大枠を定めた国防権限法で宇宙軍の創設が承認されたため、宇宙軍が管理することになる。

[ロシアのGLONASS]

 ロシア版GPSで、ソ連独自の運用を行い、軍事利用も民間利用もできるようにしようとするもので、ソ連によって1976年に開発がはじまった。GLONASSは24の衛星を使用。GPSの位置精度が3.5~7.8mなのに対して、GLONASSは5~10mとされている。1982年から衛星の打ち上げを開始し、1993年に12の衛星を二つの軌道に乗せて運用をスタートした。現在、軌道上に27の衛星がある。その運用は航空宇宙軍が担当している。

[中国の北斗]

 北斗1号は3基の衛星から構成され、2000年に運用がはじまり、中国の近隣地域のユーザーに利用された。2012年末に廃止。北斗2号は第2世代のシステムで、2011年12月に10基の衛星からなる部分的運用を開始した。2012年末からアジア太平洋地域の顧客にサービスを提供。北斗3号は2015年3月に最初の衛星が打ち上げられ、2020年までに35衛星を軌道上に乗せて地球規模の運用を行う計画だったが、前述したように2020年7月には全面稼働となる。中国は、アジア太平洋地域での北斗の精度が10㎝までに向上していると主張している。他方で、アップグレードしたGPSの精度は30㎝とされている。

[欧州のガリレオ]

 欧州宇宙機関が統括する欧州連合の衛星測位システムで、民間および商業利用のために2002年3月、その導入が合意された。2016年12月に運用が開始された。予定されている30の衛星のうち、すでに20以上の衛星が軌道上にある。2020年末までに全面稼働することが計画されている。

[日本のみちびき]

 準天頂衛星システム(QZSS)とも呼ばれている。2018年11月から、みちびきは4基体制で運用を開始した。一つの静止衛星軌道と三つの準天頂衛星軌道を使用している。GPSとの互換性があり、安定した高精度の測位計測を行うことを可能とする衛星数を確保可能だ。

[インドのNAVIC]

 インド宇宙研究機構(ISRO)が開発した地域衛星航法システムで、インド政府は2006年5月にこのプロジェクトを承認した。2016年に計画されていた7基の衛星をすべて軌道上に配置した。民間利用者に開放される「標準測位サービス」と、軍関係などの許可された利用者向けの「制限付きサービス」(暗号化されたもの)の二つのサービスが提供されている。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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