遊び感覚が軍事と結びつく「スポーツの再定義化」
2020年08月14日
自衛官募集が大変なことは、2019年2月10日の安倍晋三首相の自民党大会での発言、「新規(自衛)隊員募集に対し、都道府県の6割以上が協力を拒否しているという悲しい実態がある」によって明るみに出た。この発言の真偽や、自治体による自衛官募集への協力の是非といった論点もあるが、ここでは自衛官募集にeスポーツが利用されている事実とそこに潜むeスポーツ振興の恐ろしさについて論じたい(eスポーツについては拙稿「パンデミックで流行するeスポーツに「電通・経産省」の影:貴重な税金をカネ儲けのために使ってはならない」を参照)。
まず、2019年3月6日にアップロードされたサイトを紹介したい。「千葉地本(本部長・河井1海佐)は、1月26、27日の両日、千葉市の幕張メッセで開催されたコンピューターゲームなどを使ったスポーツ競技「eスポーツ国際チャレンジカップ」の会場に広報ブースを設け、自衛官募集をアピールした」という文書ではじまっている。「千葉地本」とは、「自衛隊千葉地方協力本部」のことである。
「地本の募集広報ブースには約1000人が訪れた。自衛官募集相談や制服試着コーナーを設け、陸海空自の広報官らは迷彩服を着て若者らに自衛隊をPRした」という文面がつづく。そして、「アンケートには若者ら約200人が協力。その結果、地本は90件の募集対象者情報を獲得した」ことをアピールしている。最後に、「千葉地本は「ゲームに興味を持つ若者に自衛隊をPRできた。今後も募集広報活動を継続して自衛隊への理解と協力を得るとともに、多くの志願者を獲得するため努力していく」としている」と結んでいる。
このサイトを見ていくつか感じることがある。第一に、eスポーツと軍事の抜きがたい関連性についてである。第二は、結果としてeスポーツ振興と税金を投じた自衛官募集との関連性という問題だ。
最初に、eスポーツと軍事の抜きがたい関連性について考えてみよう。この際参考になるのが「進んだ」米国の実態だ。
2018年9月、6500人の兵員不足が明らかになった。その数カ月後、米陸軍はeスポーツチームの兵士募集を発表した(BUSINESS INSIDER2020年2月15日付)。若者に陸軍への親近感をもってもらうのがねらいであったという。これを皮切りに、現在、陸・海・空軍はみな専用のeスポーツチームをもち、アマゾンが所有するライブストリーミング・プラットフォーム、Twitch上でそのチームの情報を流している。これらのチームは熟練したゲーマーで構成されており、トーナメントで賞金を競っている。軍のeスポーツチームのメンバーは、画面上のタレントやリクルーターでもあるのだという(THE Nation2020年7月15日付)。
ただし、正式な陸軍のU.S. ARMY RECRUITING COMMAND Official Websiteによると、「eスポーツの普及活動チームのメンバーはリクルーターではない」としている。彼らは若者が兵士を別の視点からながめたり、人々が陸軍でもちうるさまざまな役割を理解したりするのを助ける役割を担っているのだという。そのため、軍はeスポーツやゲーム機器のほか、デモンストレーション用の大型トレーラーに税金を投入している。さらに、イベントのスポンサーになるなどして、若者をeスポーツという餌で釣ろうとしているかにみえる。
ヨーロッパも事情は同じだ。スウェーデン、デンマーク、フィンランド、スイス、ギリシャ、エストニアなどは徴兵制をとっている。その他のヨーロッパ諸国では徴兵制を廃止しており、兵員募集に苦労している。このため、英陸軍のeスポーツチームは2019年開催のゲームフェスティバルに参加し、英空軍はビデオゲーミング&eスポーツ協会さえ設立している(euronews.2020年4月15日付)。オランダ軍もeスポーツチームを設立済みだし、ドイツ連邦軍も同じだ。
忘れてならないのは、eスポーツに長けたゲーマーが無人機(ドローン)の操縦士としての適性が高いという点である。「ゲーマーはパイロットよりもドローン操縦士に向いている?」という興味深い記事に、「無人航空システム(UAS)オペレーターの判断の正確さと自信:プロのパイロットかビデオゲームプレーヤーか」という論文が紹介されている。
論文によると、UASオペレーターとしての適性を調査するために、ビデオゲーム
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