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新型コロナ制御は可能 半年の経験と知見に基づく「合理的統一的政策」とは

緊急事態宣言の経験、ウイルスに関するデータを基に政治は確固たる意志で対策を進めよ

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

ウェブ会議で開かれた全国知事会の新型コロナウイルス緊急対策本部の会合=2020年8月8日、東京都千代田区の都道府県会館

 様々な異論を振り切って政府が7月22日、1兆3500億円もの公費を投入し、移動需要を喚起する「Go To トラベルキャンペーン」を前倒しで開始して2週間余りが過ぎた8月8日現在、全国で1523人(東京都429人、大阪府178人、愛知県140人(8/7)、福岡県140人)の感染が確認されるなど、コロナ感染の全国的な拡大に歯止めがかかりません(参考)。

 そんななか、東京都が8月3日~31日の間、飲食店に営業時間を朝の5時から10時に短縮するよう要請、従った事業者には一律20万円支払う事を決めたほか(参考)、愛知県が独自の緊急事態宣言を出す(参考)など、各自治体で次々と独自の対策が出されています。

 その一方で国は、8月7日に専門家を交えた新型コロナの対策分科会が、感染状況を「ステージ1(散発)」「ステージ2(漸増)(ぜんぞう)」「ステージ3(急増)」「ステージ4(爆発)」の4段階に分け、東京都や大阪府などの大都市圏は「漸増」段階にあるとし、それらを分ける際に判断の根拠となる病床使用率などの6つの指標と取るべき対策「案」を示したものの(参考)、現時点では特段の対策を講じず、安倍晋三総理が8月9日の記者会見で、分科会が公表した六つの指標は「国や地方自治体が政策実施の判断に活用するための目安」に過ぎないと述べ、「爆発」の状態となった際に緊急事態制限を発令するか否かについては明言を避ける(参考)など、対応にちぐはぐさが目立っています。

 新型コロナウイルスの感染拡大から半年がたった日本で、コロナ感染症に対応するためにこれからどのような対策を講ずるべきか、私見を述べたいと思います。

緊急事態宣言は感染拡大を抑えたが……

 今後の対策を考えるに当たって、「今さら」と思われるかもしれませんが、あえて4月8日~5月25日の緊急事態宣言と、その間に分った新型コロナウイルス・対策に関する知見を整理してみたいと思います。

 当時と今では状況が違うとはいえ、日本が特定の感染症に対して、全国規模で「自粛」という名の実質的な外出・営業・移動制限を行った経験は、当然ながらこの時一度だけであり、その経験から得られる教訓は多々あるからです。

 すでに記憶が薄れているところもあろうかと思いますが、この緊急事態宣言時においては、「3密の回避」と「人と人との接触8割削減」が呼び掛けられました。具体的には、①様々な職種の営業の自粛②不要不急の外出の自粛③都道府県をまたいだ移動の自粛――などが要請されました。

 その結果、4月10日のピーク時には708人だった全国の一日の新規感染患者は、5月25日には20人となり、緊急事態宣言は解除されました。少なくとも前回の緊急事態宣言下でしたような外出自粛、営業自粛、移動自粛を行えば、感染拡大を抑えられるということは、貴重な知見として再確認すべきだと思います。

 一方で、以前にも私自身の論考(論座「専門家会議のコロナ報告書が示す驚きのデータと『5月7日以降』の合理的対策」)で述べた通り、事後的な解析結果からは、感染のピークは全国で4月1日、東京都では3月30日と考えられ、感染の制御に必要な「自粛の程度」は3月末から4月上旬程度で十分であり、「人と人の接触8割削減」というおよそ実現不可能と思われる目標を掲げて行われた前回の緊急事態宣言下の自粛は、過剰であったと考えられることもまた、忘れてはならないと思います。

 この「過剰な自粛」は、前述の通り、結果として5月25日に感染を収束させることに成功しました。一方で「人と人との接触8割削減」の標語に代表されるように、その内容があまりに過激であったがゆえに、経済・社会活動に大きな打撃を与え、人々の心に強いトラウマを残し、それが現在の新型コロナウィルス対策を縛ってしまっているようにも見えるからです。

深刻だったデータの不備

 では、政府と、並み居る専門家を擁した「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」は何故、こうした、少なくとも事後的に見て過剰な対策を決定、実行してしまったのでしょうか。原因は複数あるでしょうが、主要なものは、①収集・解析方法を含めたデータの不備②専門家の知見を政策にするプロセスの混乱③政策評価プロセスとこれに基づく政策調整の欠如――であると私は思います。

 まず、①ですが、収集・解析方法を含めたデータの不備は相当に深刻でした。1月15日に一例目の新型コロナウィルス感染症患者がでて3カ月半たった5月上旬まで患者の集計はFAXベースで行われ、5月9日になって「各県のHP発表の積み上げ」に変更、5月29日にやっと入力システムHER-SYSが稼働しましたが、使い勝手が悪く、7月上旬時点で実際に入力しているのは、対象自治体の約7割どまり。最大の人口と感染者を抱える東京都と大阪府は入力していませんでした(参考)。

 さらに、緊急事態宣言が発出された4月上旬において、都道府県のデータ上の「感染報告日」と「感染発症日」にずれがあったことに加えて、クラスター対策班の人手不足(参考)もあり、そのように公式に認められているわけではありませんが、専門家会議が「発症日ベース」のデータを手にするのには、相当なタイムラグがあったと考えられます。このため、すでにピークが過ぎていたにもかかわらず、緊急事態宣言発出時の4月7日には、政府も専門家会議もそれを把握できていなかったのだろうと推測されます。

 正しく、一貫性のあるデータを、タイムリーに手にしていることは、政策の立案・実行の大前提であり、データの収集・解析体制が確立しないまま緊急事態宣言が出されたことは極めて残念ですし、その後3カ月がたった今現在も到底確立しているとは言えない状況であるのは、非常に大きな問題だと言えます。

専門家の知見を政策決定につなげるルールが必要

 次に②ですが、実のところ、これが前回の緊急事態宣言の最大の教訓にして、現在まで続く最大の問題であると思います。

 当初より専門家会議と政治(総理・官邸・厚労省)との確執は報じられていたところですが(参考)、

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