藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【17】ナショナリズム ドイツとは何か/フランクフルト① 抵抗を学ぶ教育現場
国民がまとまろうとする気持ちや動き、ナショナリズムをドイツで考える今回の旅で、私はナチズムの教訓に焦点を当てている。それでこれまでナチスの拠点として歴史が刻まれた場所を意識して歩いてきたが、偏ってはいけないと思っていた。
世界の金融機関が集まり見本市でも有名なフランクフルトは、中世から交易で発展した都市であり、それが権力を引きつけ神聖ローマ皇帝戴冠式の地ともなった。第二次大戦で空襲に遭ったが復興し、戦後のドイツ経済を支えた。その地からもドイツを考える視点を得ておきたかった。
摩天楼に囲まれ、欧州の共通通貨・ユーロのマークのオブジェが建つ広場には、冷戦期に東ドイツとの緊張緩和に努めた西ドイツ首相ブラントの名がついている。そこを抜け、散策の人々で賑わうマイン川沿いを歩き、フランクフルト歴史博物館を訪ねた。
大きく二棟あり、一棟は「収集家の美術館」という名になっている。「フランクフルトは昔も今も収集家と寄贈者の街です」という説明には、「市民」による市への収集品の寄贈が16世紀に遡り、この博物館が1878年にフランクフルト初の公共博物館としてできてからはここに収められ続けているとある。
「市民」は英語で”burghers”と記されている。ブルジョアジー(中産階級)と重なる言葉だ。地球儀、本、絵画、陶磁器、硬貨、武器……。「世界をよりよく理解しようと彼らが収集した品々は、彼らの社会的地位を高めました」。フランクフルトで財をなした、ユダヤ人を含む12人の収集家が紹介され、コレクションが並ぶ。騎士の甲冑を小さな子が見つめていた。
もう一つの棟へ行くと、「マネーの街」というコーナーの冒頭に「フランクフルトは古くからの交易の街で、今のヨーロッパの金融の中心です」とあった。
ガラスケースにずらっと様々な硬貨が並ぶ。「12~18世紀はドイツは400の国に分かれ、それぞれコインを鋳造した『硬貨の帝国』でした。その全てがフランクフルトで交換できました」。いま本店がフランクフルトにある欧州中央銀行のようなものだ。
「ECONOMICS(経済)」「CREDIT(信用)」といったブースが並び、やさしい経済学といった展示が続く中で、「BALANCE(貸借)」が興味深かった。大きな宗教画を据えつつ、「収集家と寄贈者の街」フランクフルトに引きつけ、こう説いていた。
「富める者が蓄財の過程で成した罪としての『負債』は、祈り(教会への支援)や慈善事業といった『通貨』で返すことができました。その上、献金などはその寄贈者にとって常に、名声が高まり、記憶にとどめられるという象徴的な資本となりました」
この博物館もドイツの近現代史を扱う中で、ナチズムの悲劇に触れている。「アンネの日記」のアンネ・フランクとともに強制収容所で亡くなった姉のマルゴットに焦点を当て、フランク家を「フランクフルトで何世代にもわたるユダヤ人の家系でした」と紹介。フランク家もまたフランクフルトを支えた中産階級だった。
だがそうしたトーンは一区画に限られ、
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