藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【18】ナショナリズム ドイツとは何か/フランクフルト② 抵抗を学ぶ教育現場
24人が男女2人ずつ机を寄せて6つの班に分かれ、教師のローラ・スキピスさん(34)を見つめる。テーマは「ナチズムへの抵抗の形」。プロジェクターで写真が映し出された。右手を斜め上に挙げナチス式敬礼をする群衆の真ん中で、男性がひとり腕を組んでいる。
スキピスさんが「この男性は何を間違ったのでしょう」と問うと、ぱらぱらと手が挙がる。
男子「ヒトラー式の挨拶をしていません」
女子「ヒトラーの支持者の集会でわざわざやるんだから、抵抗です」
スキピス「彼は労働者で、奥さんはユダヤ人でした。罰せられたと思いますか?」
男子「そうだと思います。だってユダヤ人と結婚していたんだから」
女子「こうした抵抗が初めてかどうかもにもよるのでは」
いきなり突っ込んだやり取りだ。教師も生徒も、写真の男性が実際に「間違った」とか、ユダヤ人との結婚が悪いとか言っている訳ではない。ナチス政権の独裁の下で何が「悪」とされたかを基準に話している。ドイツ人とユダヤ人の結婚を禁じたニュルンベルク法が当時あり、「違反者」としてユダヤ人の排除が正当化された歴史を理解した上でのやり取りなのだ。
スキピスさんが「彼はいったん捕まって解放されましたが、ユダヤ人の妻がいたからということで、また捕まって強制収容所に送られました」と引き取る。そして、「抵抗にはいろんな形があるという話をします。これを見てください」とプリントを各班に配った。
戦後のドイツの歴史学者デトレフ・ポイカートが、ナチス政権下での様々な形の抵抗を説明したグラフ「逸脱行動の形態」が記されている。
抵抗のエスカレートについて、縦軸はナチス政権の個別の問題に対してから政権全体に対して、横軸は私的な場から公的な場へと強まっていくことを示し、線が階段のように右上へ伸びている。段が上がるごとに、「不適合」「拒否」「抗議」「抵抗」と四段階で表現が強まっていく。