藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【20】ナショナリズム ドイツとは何か/フランクフルト④ 抵抗を学ぶ教育現場
ドイツ西部ヘッセン州、国際金融都市フランクフルトの近郊にある州立ハインリヒ・ハイネ校。教頭のステファン・ロットマンさん(52)、歴史の教師のローラ・スキピスさん(34)と一緒に、こぢんまりした教頭室でコーヒーを飲みながら話している。2月17日午前、同校で参観した歴史の授業でのナチズムの扱いについてだ。
ドイツの教育ではナチズムの教訓が重視されるとは聞いていたが、今回の授業では、とりわけ「ナチズムへの抵抗の形」をテーマに、ナチス政権に対して実際にあった様々な抵抗の例をふまえ、「当時自分ならどうしたか」という議論にまで深めていた。連載で前々回から紹介した通りだ。
近代国家にとって「国民」の教育に欠かせない歴史の共有において、ナチズムという途方もない負の歴史を直視するドイツの「離れ業」の現場を見たいというのが、授業参観の動機だった。だが、現場で見たスキピスさんと生徒たちのやり取りは、そんな私の思い込みを払拭(ふっしょく)するごく自然なものだった。
ナチス時代に関する研究の蓄積を教師が生かし、当時の政治と社会の動きを一つ一つ確認しては生徒を次の疑問へ導く。それは、ドイツが第二次大戦前にいったん手にした民主主義が生んだ独裁の暴走を繰り返さないことが、戦後民主主義の合意であることを生徒たちに確認させつつ、これからその一員となる自分がどう関わっていくかを考えさせることにつながっていた。
ロットマンさん、スキピスさんと話しながら、ドイツの歴史教育は二層になっているということではないか、と私は考えた。
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