藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【22】ナショナリズム ドイツとは何か/ブラウンシュバイク② 国際教科書研究所
近代国家において国民がまとまろうとする気持ちや動きであるナショナリズムと、歴史を国民が共有するための教科書の関係を考えている。2月18日午後、ドイツ北部のブラウンシュバイクにあるゲオルク・エッカート国際教科書研究所を訪れた話を、前回から続ける。
インタビューの相手はエッカート・フクス所長(58)。戦後ドイツが徐々にナチズムへの反省を深め周辺国と進めた和解を、歴史教科書に関する二国間対話という形で支えてきたこの研究所を率いる。その意義をめぐるやり取りは前回紹介したが、今回は、にもかかわらず排外主義が目立ってきたドイツの現状について聞く。
――ドイツでは、今世紀に入り移民にルーツを持つ人々が次々と射殺されたり、中東からの大量の難民を受け入れた政府を批判する新興右翼団体が勢力を伸ばしたりしています。「ネオナチ」とも呼ばれるこうした現象をどう見ていますか。
戦後、欧州の旧敵国と和解し共存する必要があったドイツは、歴史の解釈でコンセンサス(社会の合意)を築いてきました。二度の大戦を経てナチスを生んだ罪を受け入れ、教育に反映させ、ホロコースト(大量虐殺)を疑う人はいなくなった。だがいま、戦後初の大きな試練に直面しています。その合意を新興右翼政党が揺るがそうとしているのです。
この研究所ではドイツの歴史的な罪だけでなく、欧州全体が直面する移民、多様性、ジェンダー、過激主義といった現代の課題についても、国内外の教科書を分析、比較し、認識を共有するよう提言してきました。だが社会は複雑さを増すばかりで、しかも現在進行形の問題は白黒をつけがたい。改訂が数年に一度の教科書で扱うことは困難です。
欧州各国がそうした問題を抱える中で、ドイツではポピュリスト政党が反ユダヤ主義や過激主義をあおり、難民受け入れや同性愛を批判するデモが目立つようになりました。幸いそうした動きに反対するデモもあり、教科書を見直せという話までにはなっていませんが、排外的なナショナリズムが起きていることは確かです。