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戦後の合意揺るがす新興右翼 歴史教科書に何ができるか

【22】ナショナリズム ドイツとは何か/ブラウンシュバイク② 国際教科書研究所

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

共通教科書の普及に壁

――この研究所の業績には、かつてドイツが侵略したポーランドやフランスと二国間で歴史認識を共有する教科書の出版にまでこぎ着けたというものがあります。その共通教科書を活用すれば、事態の改善に役立つのでは。

 まずドイツの教科書システムを説明します。連邦制で16州それぞれに教育を担当する省があり、学校で教科書を使ってほしい出版社は各州の認証を得る。このブラウンシュバイク市の学校が使う歴史教科書だと、ニーダーザクセン州が認証した教科書リストの中から、学校単位で教師が相談してどれを使うか決めます。

拡大ドイツの教科書がぎっしりと並ぶ国際教科書研究所の図書館で説明する司書=2月、ドイツ・ブラウンシュバイク。藤田撮影。以下同じ

 国内には歴史と地理だけで1500種もの教科書があります。私たちが関わった共通教科書を各校で選んでほしくても、わかりやすさや、大学受験への対応などからふつうの教科書になりがちだし、ドイツ西部の州であれば遠く東のポーランドとの共通教科書はますます使われにくい。フランスとの共通教科書も歴史より外国語の授業に使われているようで、残念です。

 ドイツ政府にもっと後押しをしてほしいのですが、まだ傲慢なところがある。欧州全体としての歴史認識を育もうという国際的なプログラムがあって、私は去年外務省に行き、参加するにはそれに対応する教材が必要だと働きかけました。ところが答えは「参加しません。なぜならドイツの教科書はすでに素晴らしいから」というものでした。

――最近、ドイツの教育制度に変化はあるのでしょうか。

 重要な変化は、2004年以降にコンペテンシー(適応性)重視の教育が広まったことです。国際的な学習到達度調査であるPISAでドイツの2000年の結果がふるわず失望が広がったので、各州の教育文化担当相が集まる会議で指針を転換し、知識を詰め込むインプット重視から、知識を活用するアウトプット重視へと変わっていきました。

 例えばフランス革命や産業革命について、重要な年号や人物の名前を覚えることにこだわるのではなく、歴史における革命の意義といった大きなとらえ方で、多角的な視点や批判的な分析をふまえて考えます。教科書には様々な素材や出典が示され、生徒たちはそれを自分でアレンジしながら学習していきます。

 この研究所が出版に貢献した共通教科書は、まさにそうした精神の産物と言えます。

拡大国際教科書研究所が作成に携わった、イスラエルとパレスチナの共通教科書

 ただ、こうした教育を突き詰めていくと、最近のドイツとの関係で難しい面も出てきます。排外主義を唱える新興右翼政党が議会で一定の支持を得るようになったのなら、なぜ彼らの主張を支持してはいけないのかという疑問が出てくるのです。

 確かに歴史には解釈が欠かせないし、世界に視野を広げればグレーな分野はいくらでもあります。例えば反ユダヤ主義は許されませんが、中東でユダヤ人が入植したイスラエルと周辺国の紛争についてイスラエルを批判することが反ユダヤ主義かと問われると、たぶん教科書の著者にも答えはありません。

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)

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