藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【23】ナショナリズム ドイツとは何か/ブラウンシュバイク③ 国際教科書研究所
ドイツのナショナリズムを探る旅で、北部のブラウンシュバイクにあるゲオルク・エッカート国際教科書研究所を2月18日午後に訪れた話を続ける。
欧州を中心に各国の歴史教科書が偏らないよう点検し、対話を促す独立系シンクタンク――。こうざっくり表現すると、ナショナリズムの超越を目指す組織のように思われるかもしれない。だが、実際に訪ね、エッカート・フクス所長(58)にインタビューして実感したのは、前々回から紹介した通り、ドイツのナショナリズムにとって欠かせない組織だということだ。この連載で私が前提とする、ナショナリズムとは国民がまとまろうとする気持ちや動きであるという意味において。
戦後のドイツは、人権を蹂躙(じゅうりん)し、他国を侵略したナチズムへの反省をもって、ナショナリズムの陶冶(とうや)に努めてきた。その歩みにこの研究所は大きく貢献してきた。歴史教科書を通じた国際対話によって、かつての敵国と共有できる認識を探り、いま大量の難民で高まる排外主義を抑えようとしている。
この研究所が前身の時代から約70年間かけて世界へ広げた対話は、かつての敵国においてもナショナリズムの陶冶にもつながりうる。さらに、研究所がその対話の網を手繰って集めた17世紀からの教科書など資料28万点と、デジタルアーカイブ化の推進は、その名の通り世界に教科書研究の基盤を提供している。
フクスさんへのインタビューを終え、二階の所長室を出て、創設者の歴史学者ゲオルク・エッカートの遺影が壁に掛かる階段を降りる。研究所は築40年近くになる白い石造りの二階建てで、中枢をなす図書館は一階と中二階、地下一階を占めている。
司書のカースティン・シャッテンバーグさん(53)の案内で、世界の教科書がぎっしり詰まった図書館を「探検」した。