メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

「ひとつのドイツ」をどう表す 元国立歴史博物館長との対話(上)

【24】ナショナリズム ドイツとは何か/ワイマール① ホロコーストと市民

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

ナチス問題と戦後秩序のつながり

 先述の連載記事で紹介したノイエ・ヴァッヘの話をひとしきりうかがった後で、私は4日前にベルリンで訪れた国立ドイツ歴史博物館の常設展について聞いてみた。

――ゲルマン民族大移動からベルリンの壁崩壊までが凝縮されていましたが、そのうちわずか20年ほどのナチス時代のスペースが4割ほどと圧倒的でした。記憶の継承へのこだわりを感じる一方で、ドイツ再統一後の話がないのは寂しい気もしました。あれはシュトルツルさんが館長の時からの展示ですか。

 私の頃はもっと簡潔でストーリーテリングだったね(笑)。特に20世紀のドイツの歴史はいろいろありすぎてきりがないから。でもナチスの展示にそれだけ割くのは巨大な問題だからだ。戦争を求めたヒトラーの狂気、破壊とホロコースト(大量虐殺)……。信じがたい数々の非人道的な出来事があった。それを決して繰り返さないためにどう語るか。人々が黙考するような印象的な展示ができないかと、館長の頃はユダヤ人画家の絵を買ったりしたよ。

拡大自身が携わった様々な歴史博物館の展示をネットで検索するシュトルツルさん

 しかもナチスの問題は、「人間の尊厳は不可侵」と冒頭に掲げるドイツの基本法(憲法)や、再び戦争を起こさないための国際連合といった戦後秩序につながっている。現代の問題に引きつけて考えるためにも、そこまで展示しておかないといけない。それに比べれば再統一後の30年なんて平和なもんで、人々の普通の暮らしが続いているだけだ。

 シュトルツルさんは気さくに語ったが、最後の「再統一後は平和」のところが気になった。私は今回の旅で、再統一で旧西側に吸収された旧東側の学者から、今なお残る旧西側の政治や社会への違和感を耳にしていた。そしてその背景に、ドイツが分断されていた頃に教育を受けた今の中高年世代で、旧西側と旧東側ではナチス時代への向き合い方に差があるのではと感じていた。

 例えば、前日に訪れた国際教科書研究所のエッカート・フクス所長(58)は旧東側のポツダム出身だが、当時を俯瞰してこう述べていた。

 「冷戦期の東側政府は、西側政府と違って『ドイツがナチス時代に犯した罪』という考えを受け入れなかった。東側政府こそ、全体主義に抵抗したドイツの歴史の進歩的な要素の継承者であり、真の民主主義だと自身をみなしたからだ。再統一後、旧東側の人々が民主主義を学ぶプロセスはまだ続いている」

拡大以前にインタビューに応じた国際教科書研究所のフクス所長=2月、ドイツ・ブラウンシュバイク。藤田撮影

 この点について、シュトルツルさんとはこんなやりとりになった。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

藤田直央の記事

もっと見る