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民主主義を終わらせぬために ワイマールの人々の問いかけ

【29】ナショナリズム ドイツとは何か/ワイマール⑥ ホロコーストと市民

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

「ポピュリズムという妖怪」

拡大史料館「ワイマール共和国」の展示「民主主義のビジョン」より

複雑な時代に単純な答え?

 欧州にポピュリズムという妖怪が現れています。克服したと長らく思われていたものが蘇り、民主主義の土台を脅かしているようです。経済危機、大量失業、移民、そして将来全般への懸念が、単純な回答と解決への願望という火に油を注いでいます。

 かつてのワイマール共和国や周辺国でもこの現象がはびこっていました。左翼や右翼の急進的なイデオロギーが救済を約束して人気を得ました。欧州の若い民主主義は一国ずつ独裁に陥っていきました。現代のポピュリストたちの狙いは何でしょう? 彼らが批判する「やつら」とは、地方自治体、中央政府、欧州連合(EU)のどれなのでしょう?

 ポピュリズムは近年、ドイツや世界各地で躍進しているようです。現代のポピュリストたちはイデオロギーよりも「常識」に戻れと求めます。その「常識」こそ、私たちがポピュリズムに対抗するために使わねばならないものです。

拡大史料館「ワイマール共和国」で展示を見る人たち

民主主義には妥協が必要?

 ドイツの政治では妥協は評判がよくありません。ワイマール共和国の頃は、『こちらは、かたやあちらは』ときりのない連立政権が批判されました。いろんな立場やイデオロギーの寄せ集めで、妥協にあまり前向きではありませんでした。多くの団体が議会を「議論ばかりで行動しない」と見なして街頭でデモをし、自分たちの意見を押しつけようとしばしば暴力に走りました。

 危機の時代には、左翼も右翼もプロパガンダに聴き入るよう仕向けられました。不安が増す今日の多くの人々もまた「もっとはっきり」した政治を好みますが、私たちの議会制民主主義とは利害を調整するものです。それを弱さと考える人もいますが、政治とは議会であれ地域の集会であれ、妥協に基づくものです。

 他人の声に耳を傾け自分の意見にこだわらないことは難しいものです。しかし、妥協への意志は、私たちの民主主義と、人間社会での共存にとっての要石なのです。


筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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