藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【30】ナショナリズム ドイツとは何か/フランクフルト再訪、岡裕人氏に聞く
ドイツのナショナリズムをナチス時代への向き合い方から探る旅は、12日目の最終日を迎えた。2月20日朝に中部ワイマールをドイツ鉄道で発ち、西部のフランクフルトへ。最後の取材をして、夜にフランクフルト国際空港から羽田へ発つ。
思えば旅の始まりもフランクフルトだった。外国人旅行者用の特急乗り放題パスを駆使した強行軍も終わりか……とぼんやり車窓を眺めていたが、二時間ほどで近郊のハーナウ駅にさしかかり、気が引き締まった。
前日にこの町で移民のルーツを持つ9人が射殺された、というニュースが流れていた。この連載で冒頭に紹介した事件だ。(※ハーナウでの連続射殺事件に触れたこの連載のプロローグ)
犯人はまだ逃げているのだろうかと思いながら、混み合うフランクフルト中央駅で降り、ローカル線で数駅の住宅街へ。トランクをごろごろと押しながら、フランクフルト日本人国際学校を訪れた。最後の取材で、岡裕人事務局長(57)に話を聞くためだ。
この旅では岡さんに大変お世話になった。ベルリンの壁が崩れた留学中から30年を超えるドイツ在住。ドイツ史で博士号を持ち、日本人学校で教師として歴史を教え、二人の子はドイツの公立学校に通った。教育関係者との交流を生かしたドイツの歴史教育に関する著書は取材で大変参考になり、要所へのアポイントでも助けていただいた。
校舎に入ると、日本人の子供たちの賑やかな声が響いていた。事務局長室に岡さんを訪ね、ハーナウの事件に触れると「恐いですね。EU(欧州連合)の加盟国間は移動が自由で銃規制も難しいですし…」。
ぶつけてみたい疑問がたくさんあった。挨拶もそこそこにインタビューを始めた。