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「日米核共有研究」を提言 米政府の秘密文書を読む 中国核実験の翌1965年

東アジアが緊迫すると語られる日米核共有はありうるのか

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

米ジョンソン政権の「核不拡散委員会」が1965年6月、日本の核武装を防ぐためまとめた報告書の冒頭と、「核共有」の研究を提言したページ=近畿大の吉田准教授提供

 中国が核開発に乗り出した。日本まで核武装に走らないよう、米国の核を日本と共有する研究をすべきだ――。米政府内でのそんな提言を記す1960年代の秘密文書がある。今や中国に加え北朝鮮も核開発を進め、緊張が高まった2017年には日本の政界で米国との核共有論が語られた。日米で時折頭をもたげるこの議論について、今回の異色の文書を紹介しつつ考えたい。

 英文で「秘密 限定配布」と記されたこの文書のタイトルは「日本の核兵器分野の見通し 米国の行動の指針への提言」。米ジョンソン政権で国務省や国防総省などの高官からなる「核不拡散委員会」が1965年6月、ラスク国務長官に提出した。

 米政府では冷戦初期の1950年代、ソ連をはじめとする共産主義陣営の侵攻を欧州だけでなく極東でも防ごうと、日本にも米国の核を置くことを国防総省で構想していた。それは実現しないまま、64年に中国が核実験に踏み切った。

 この東アジアの安全保障をめぐる動揺が日本に波及し、核武装に向かわせることを防ぐ狙いで、米政府の省庁横断の組織が日本との核共有の研究にまで踏み込む提言をしていた。この文書はそうした意味で異例だ。

 「核不拡散委員会」については、米国立公文書館での開示文書を元に、日本の学者では今世紀に入り黒崎輝・福島大教授(国際政治論)の先行研究がある。この文書も複数の学者が紹介しているが、核共有の部分はほとんど報じられていない。その学者のひとりである吉田真吾・近畿大准教授(日本外交)が2008年に入手していた文書をいただいた。

「自衛隊機が米空母拠点に訓練」

 全16ページの終盤にある核共有に関する部分から、まず紹介する。日本の核武装を防ぐための7項目で最後の提言だ。

7. 米政府がすべき関連研究

(a) 日本が独自の核戦力を築く代わりに米国が引き受けて構わない、米国の核兵器を日本と合同で統制し使用することの調整。可能性のある実例としては、

 (1)米国の核を日本に配備し、米軍と自衛隊が合同か単独で、日米合意の条件で使用

 (2)自衛隊が米国の核や運搬手段を使い、日本への攻撃を防ぐ訓練(例えば、自衛隊の航空部隊が米空母を拠点に行う。核を日本に持ち込まずに、自衛隊が核兵器と通常兵器のどちらにも使える兵器体系に加われる)

 (1)は明確な核共有だ。米国の核を日本に持ち込むという狭い意味でなく、日本防衛のための日米合同運用にまで踏み込んでいる。(2)はそのために自衛隊の練度をどう上げるかについてで、被爆国として日本国民の反核感情が強いことをふまえ、訓練を「核を日本に持ち込まずに」どう実施するかの具体例を示している。

米ジョンソン政権の「核不拡散委員会」が1965年6月にまとめた報告書で、日本の核武装を防ぐため「核共有」の研究を提言した部分=近畿大の吉田准教授提供

 日本は佐藤栄作政権がこの2年半後の1967年12月に「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を打ち出し、70年には核不拡散条約(NPT)に署名。さらに72年に田中角栄政権が中国と国交を正常化し、この提言は結局現実とかけ離れたものになった。米政府から日本政府に打診されたかどうかも定かでない。

 ただ、この文書がまとまる前年の1964年には、10月の東京五輪の最中に中国が核実験に成功。危ぶむ佐藤首相は65年1月の日米首脳会談で日本核武装の可能性を示唆し、ジョンソン大統領は「核の傘」で日本を守ると約束した。60年の安保条約改正で深まった日米同盟は試練を迎えていた。

1964年10月の東京五輪中にあった中国の核実験を伝える新聞を見る台湾の選手たち=東京・代々木の五輪選手村

 大統領による「核の傘」の約束から5カ月経って、米政府内でなおも日本の核武装を防ごうと核共有の研究にまで踏み込むこの提言がされたところに、ジョンソン政権の警戒感がにじむ。

 以下、当時の状況を振り返りながら、この文書全体を概観したい。

「日本は75年までに核ミサイル100基」

 添付の表紙にこの文書の作成者として記された「核不拡散委員会」は、前述のようにジョンソン政権の肝いりだ。同政権は、中国の核実験がインドや日本、西ドイツなどに連鎖し、核戦争の可能性が高まることを警戒し、核不拡散を重視。省庁横断のこの委員会がラスク国務長官の下にできた。その委員会が日本について提言をまとめたのが、この文書ということになる。

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