2020年08月16日
8月10日、香港、そして世界中に衝撃が走った。
香港警察が中国に批判的なスタンスを取り続けてきた民主派の香港紙「りんご日報」の創始者であり、民主派メディアの重鎮である黎智英(ジミー・ライ)さんや同社幹部ら計9名を香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕したのだ。さらに民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんも同法違反容疑で逮捕された。
周さんは日本語が堪能で、日本メディアの取材に応じていたこともあり、その逮捕は特に日本で大きく報じられた。その後、日本のSNSで「#FreeAgnes」「#周庭氏の逮捕に抗議します」などのハッシュタグがトレンド入りし、周庭さんの解放を求める大きな声が国際社会から寄せられた。
逮捕翌日の11日、保釈された周さんや黎さんの姿には日本でも多くの人が胸を撫で下ろしたはずだ。
しかし、この光景を見て「香港やばいね」「中国怖いね」と感じるあなたこそに知ってほしいことがある。
これは「よその国の話」ではない。政府の方針に意を唱え、それを周さんと同じように抗議活動で示した人が逮捕されるということは、日本でも現実に起こっている。
周さんと同じように民主主義と権利を求めて抗議活動を行ったその人は、「有刺鉄線を2箇所切った」容疑で逮捕され、その後5ヶ月もの間勾留された。その人は5ヶ月の間、弁護士以外の外部との交流を一切禁じられ、家族に会うことも手紙を受け取ることさえもできなかった。24時間灯りっぱなしの照明の下、時間の感覚を奪われる苦しみ、さらには持病が悪化するかもしれないという恐怖とたたかわなくてはならなかった。
その人とは、沖縄の平和運動のリーダーの一人、山城博治さんだ。
香港の周さんや黎さん、沖縄の山城さんに共通するのは、民主主義そして市民の権利を守るという自らの信念に基づいて報道や抗議活動を通じて声を挙げ、それによって国家当局に逮捕されたことだ。
沖縄県では近年、米軍の新しい施設や基地の建設に対する県民の抗議活動が継続しているが、それに対して日本政府による「弾圧」とも言える事態が起こっていることは本土ではあまり知られていない。
2016年には地元住民が根強く反対していた米軍のヘリパッド建設のため、人口わずか150人ほどの高江地区(東村)に500人もの機動隊が派遣された。派遣が決まったのは2016年7月10日に行われた参議院議員選挙で、新基地建設反対を掲げた伊波洋一氏が当選した直後である。
普段は静かな地区の道路は紺色の制服の機動隊で埋め尽くされ、反対する県民の強制的な排除が行われた。座り込みを続けようとする県民と、排除しようとする機動隊の間で激しいもみ合いが起こり、現場は騒然としていた。
山城さんは沖縄の基地建設反対運動を長年リードしているシンボル的な存在で、高江でも抗議活動を率いていた。
2016年10月17日、山城さんは仲間とともに工事の状況を確認するために米軍施設のエリアに入ろうと、侵入防止のために設置された有刺鉄線を止めている針金を二箇所切断した。その後、機動隊員に肩を掴まれ、止めようとする仲間から引き離されて警察車両に入れられた。
その日から、山城さんは5ヶ月間勾留された。
その間、弁護士以外、家族も含めて誰とも接見を認められなかった。弁護士との接見も分厚い窓ガラス越しでしか許可されなかったため、十分な意思疎通ができなかったと後に山城さんは語っている。
さらに、拘置所内には時計がなく、就寝時には少しだけ弱くなるものの照明が24時間灯りっぱなしだったために時間の感覚を奪われ、大きな苦痛だったそうだ。後にある国連関係者は「時間の感覚を奪うのは、拷問の初歩的な手法である」と語っていた。
山城さんの勾留は2016年10月に始まったが、その直後には2ヶ月前に防衛局の職員を強く揺さぶったという容疑で、11月にはキャンプシュワブのゲート前にコンクリートブロックを積んで工事を妨害したという10ヶ月も前の容疑で、勾留中にさらに2回逮捕された。
こうやって聞くと「フェンスを切ったら確かにダメだろう」「工事を邪魔したらダメだろう」と思ってしまうかもしれない。
しかし、思い出してほしい。香港の民主化を求める人びとは道路をデモで埋め尽くし、空港で座り込みをして空港機能を停止させた。時には大学にバリケードを築くこともあった。それは抗議活動でしか届けられない声があったからだ。そうでもしなければ逃亡犯条例が改正され、香港の自治が揺らいでしまう、という恐れがあったからだ。そして実際に逃亡犯条例改正を阻止することに成功した。
沖縄で山城さんたちが抗議活動を行ったのも、そうでもしなければ高江地区で暮らす人々を囲むように6つの米軍ヘリパッドが建設されてその生活が脅かされてしまうからであり、そうでもしなければ辺野古の海に巨大な米軍基地が建設されて恒久的に使用されてしまうからだ。
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