阿部 藹(あべ あい) 琉球大学客員研究員
1978年生まれ。京都大学法学部卒業。2002年NHK入局。ディレクターとして大分放送局や国際放送局で番組制作を行う。夫の転勤を機に2013年にNHKを退局し、沖縄に転居。島ぐるみ会議国連部会のメンバーとして、2015年の翁長前知事の国連人権理事会での口頭声明の実現に尽力する。2017年渡英。エセックス大学大学院にて国際人権法学修士課程を修了。琉球大学客員研究員。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
8月10日、香港、そして世界中に衝撃が走った。
香港警察が中国に批判的なスタンスを取り続けてきた民主派の香港紙「りんご日報」の創始者であり、民主派メディアの重鎮である黎智英(ジミー・ライ)さんや同社幹部ら計9名を香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕したのだ。さらに民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんも同法違反容疑で逮捕された。
周さんは日本語が堪能で、日本メディアの取材に応じていたこともあり、その逮捕は特に日本で大きく報じられた。その後、日本のSNSで「#FreeAgnes」「#周庭氏の逮捕に抗議します」などのハッシュタグがトレンド入りし、周庭さんの解放を求める大きな声が国際社会から寄せられた。
逮捕翌日の11日、保釈された周さんや黎さんの姿には日本でも多くの人が胸を撫で下ろしたはずだ。
しかし、この光景を見て「香港やばいね」「中国怖いね」と感じるあなたこそに知ってほしいことがある。
これは「よその国の話」ではない。政府の方針に意を唱え、それを周さんと同じように抗議活動で示した人が逮捕されるということは、日本でも現実に起こっている。
周さんと同じように民主主義と権利を求めて抗議活動を行ったその人は、「有刺鉄線を2箇所切った」容疑で逮捕され、その後5ヶ月もの間勾留された。その人は5ヶ月の間、弁護士以外の外部との交流を一切禁じられ、家族に会うことも手紙を受け取ることさえもできなかった。24時間灯りっぱなしの照明の下、時間の感覚を奪われる苦しみ、さらには持病が悪化するかもしれないという恐怖とたたかわなくてはならなかった。
その人とは、沖縄の平和運動のリーダーの一人、山城博治さんだ。
香港の周さんや黎さん、沖縄の山城さんに共通するのは、民主主義そして市民の権利を守るという自らの信念に基づいて報道や抗議活動を通じて声を挙げ、それによって国家当局に逮捕されたことだ。