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ベラルーシの政情不安:プーチンの介入はあるか

「欧州唯一の独裁者」に政権交代の可能性

塩原俊彦 高知大学准教授

 いまベラルーシの政情が不安定となっている。2020年8月9日に行われた大統領選で不正があったとして国民が抗議運動を展開、それに対して当局側は数千人を逮捕・拘留したり、暴力で傷つけたりした。少なくとも二人の死者が出ている。8月16日には、10万人を超す人々がアレクサンドル・ルカシェンコの辞任や選挙のやり直しなどを求める集会を開いた。これに対して、ルカシェンコ側は大統領府の発表で7万5000人が参加する集会を開催し、政権の正当性を訴えた。

 だが、複数のメディアは、ミンスク自動車工場やベラルーシ自動車工場のほか、カリウム肥料の世界的輸出メーカーのベラルーシカリなどの大規模会社のストライキによる抗議行動が同時に行われていると伝えている。ベラルーシ全体を巻き込んだ混乱のなかで、ウラジーミル・プーチン大統領によるロシアのベラルーシへの介入があるのではないかとの臆測も生まれている。ここでは、ベラルーシの現状について解説したい。

拡大ルカシェンコ大統領に抗議するプラカードを掲げたデモ参加者=2020年8月16日、ミンスク、ベラルーシ Jimmy Tudeschi / Shutterstock.com

大統領選をめぐって

 6選をめざしたルカシェンコは対立候補を逮捕したり、難癖をつけて候補者登録を認めなかったりすることで、自らの当選を確実なものにしようとしてきた(詳しくは拙稿「日本をベラルーシにしてはならない」を参照)。その典型が「ストップ・ゴキブリ野郎!」をスローガンにしてルカシェンコに挑んだ有名ブロガー、セルゲイ・チハノフスキーの逮捕・拘留であった。このため、妻、スヴェトラーナが候補者となり、何とか候補者登録までこぎつけたのであった。その主張の根幹は、彼女が大統領に選ばれれば、すべての政治犯を釈放し、半年後に改めて大統領選を行うというものであった。

 大統領選後、当局はルカシェンコが6選に成功したと発表した。中央選管は、ルカシェンコの得票率が80.1%(466万1075人)で、逮捕された反ルカシェンコの夫に代わって出場したスヴェトラーナ・チハノフスカヤの得票率が10.12%(58万8622人)と発表したのである。しかし、実際の得票率はルカシェンコが20%程度にすぎず、チハノフスカヤ自身は得票率が60~70%にのぼっていたと主張している(BBCのビデオ参照)。

 注目されるのは、チハノフスカヤがベラルーシの国家保安委員会(KGB)の将校に脅され、二人の子どもの命を守るためにリトアニアに連れ出されたという事実だ。「警察に反対しない」ように発言するビデオを無理やりに撮られ、公開されたのだ。

 暴力で反対派を抑え込む姿勢は8月10日に抗議者の一人が「正体不明の爆発物」によって手のなかで爆発して死亡したと発表した内務省の姿勢に現れている。だが、実際には、抗議者は治安部隊によって撃たれた可能性が高い(「ベラルーシでの弾圧は裏目に」)。同じ記事によると、先週だけで少なくとも6700人の抗議者が拘束され、数百人が負傷したり殴られたりしたという(保健相によれば、抗議行動で2人が死亡、158人が負傷)。8月17日までに拘束者の一部が解放され、警察や特務機関の職員によって拘束された人々がひどい拷問や暴力にさらされた事実がつぎつぎに明らかになった。重大犯罪の調査を担当するベラルーシ予審委員会によると、600人が拘束されている間に殴られたという疑惑について苦情を申し立てているという。

 8月17日、ルカシェンコはミンスクの二つの工場を訪問したが、「ウハジー」(「辞めろ」)の怒号にみまわれた。彼は、「あなたたちが私を殺すまで、他の選挙はない」と強気な姿勢をとる一方で、憲法改正によって大統領権限を再配分する意思があるとした。国民投票を通じて、「新しい憲法を採択する必要がある」としたうえで、「新しい憲法下で、議会、大統領、地方自治体の選挙が行われるべきだ」と主張したのである。

 彼が選挙前から現行憲法を変えようとしていたことは事実だ。8月4日付の「リア・ノーヴォスチ」によると、2年以内に準備すべき新憲法について国民投票を実施する準備ができている発言していた。彼は地方自治体への権限移譲を進める方針を明らかにした。だが、この憲法改正の全容は明らかにされておらず、この程度の説明でいまのベラルーシ国民の怒りが収まる情勢ではない。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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