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吉村洋文・大阪府知事のイソジンうがい推奨は何が間違っているのか?

維新の会の“体質”であるリスク無視の「Good Try」論こそが問題だ

米山隆一 前新潟県知事。弁護士・医学博士

「ポピドンヨードうがい」研究の致命的欠陥

 まずもって、松井大阪市長の「結果が出たのに、黙っていろと言うのか」に代表される「この研究でイソジンうがいの有効性は示されている」とする考え方は本当でしょうか?

 その判断の材料となる、「地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪はびきの医療センター 次世代創薬創生センター長」松山晃文氏の手による「ホテル宿泊療養におけるポビドンヨード含嗽の重症化抑制にかかる観察研究について」公式に公開されている資料は、何とA4で1枚の資料だけです。

 この資料は通常の論文がとる、Abstract(要約)、 Introduction(導入)、 Methods(手法)、 Results(結果)、 Discussion(考察)、 Conclusions(結論)、という体裁をとっておらず、それぞれの要素はまったく網羅されていません。

 特に、①Methods(手法)で記載されるべき「イソジンうがい群」「非うがい群」のそれぞれの構成(最低限年齢と性別の構成)と、それぞれの群に対する研究の実施条件が示されてない、②Results(結果)で示されているそれぞれのデータについて、平均値のみが示され、データの標準偏差が示されておらず、有意かどうか判断できない――という致命的欠陥があります。

 論文の形式になっていないことについては、「これからやるところだった」と言う言い訳がとおらないでもないのですが、上記の①②は致命的です。

 研究者が研究として行っている以上、①②のデータがないはずはなく(ないなら、それは研究ではありません)、それが公式資料に示されていないということは、①群の年齢・性別の構成が著しく偏っており、結果を一般化できない。またそれぞれの群に対する研究の実施条件も統一的なものではない、②データの標準偏差が極めて大きく(平均値の差より大きく)統計的に有意でない――としか考えられないからです。

 もちろんこれは推測に過ぎないのですが、もし群の構成が適切で、それぞれの群に対する実施条件が統一的で、各データの分散が平均値の差より小さく統計的に有意であるなら、松山医師と吉村知事はただちにそのデータを公開して批判を払拭することが可能であり、それがなされていない以上、そうではないと判断せざるを得ません。

 すなわち、そもそもこの研究で「結果が出た」と考えること自体、まったく科学的ではなく、大阪府知事や大阪市長がそのように考えているのであれば(そのように考えているからこその会見でしょうが)、大変恐縮ながら、このお二人は「科学的リテラシー」に関してはほとんどゼロであると言わざるを得ません。

 そのうえ、このお二人は、恐らくは大阪府庁、大阪市庁にいるはずの「科学的リテラシーのある職員」の諫言(かんげん)に耳を貸さなかったか、もしくは、大阪府庁、大阪市庁には、お二人にその様な諫言ができる職員はいないとしか考えようがないことになります。

拡大大阪府の吉村洋文知事と、研究を行った大阪はびきの医療センターの松山晃文氏=2020年8月4日、大阪府公館、

疑問だらけの研究デザイン

 さらに、よりそもそもの問題として、この研究は研究デザインからして疑問が多いものです。すでに随所で指摘されていますが、思いつくものを挙げてみます。

 まずは、
①結果として示されているのは「唾液のウィルス陽性率」のみであり、「イソジンうがい」が唾液中、さらには体全体からのウィルス排出量を減らすのか、重症化を抑制するのか、感染を抑制するのかについては、何も言えない、

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 前新潟県知事。弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

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