藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【番外】ナショナリズム 日本とは何か/話題の小説「邦人奪還」の著者・伊藤祐靖氏
小説で印象深いのは、この作戦の「なぜ」について、首相官邸での会議で藤井3佐らが葛田首相に問う場面だ。助け出す拉致被害者の人数を超える自衛官の犠牲者が生じうる。それを「なぜ」行うのか。
葛田首相は手代木官房長官に促され、「共通の国家理念を追い求める同志、同胞たる自国民を見殺しにはしない。なぜなら、それが国家理念だからだ」と答えた。
ただ、これは答えになっていない。「自国民を見殺しにはしない」のは「なぜ」かにあたる「共通の国家理念」、それは「自国民を見殺しにはしない」ことだというトートロジー(同語反復)に陥っている。
私が伊藤氏に「もやもやします」と問うと、「ありがとうございます。それは私の『地雷』なんです。もやもやしてほしかった」と感謝された。戸惑う私に、伊藤氏は続けた。
「ここで言いたかったのは、国家、国民とは何だということです。ある国境線の内側でたまたま生まれた人たちということだけなのか。同じ志を持つ間だからこそ、何の落ち度もなく自由を奪われた人たちを損得勘定で放置するわけにはいかない。それがこの作戦の『なぜ』にあたる国家理念ではないのか。そう問いかける『地雷』です」