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TikTok規制議論に欠ける児童のプライバシー保護の視点

日本の法規制は決定的に遅れている

塩原俊彦 高知大学准教授

 朝日新聞電子版(2020年7月28日付)によると、「自民党の甘利明税調会長がトップを務める「ルール形成戦略議員連盟」は7月28日、国会で会合を開き、中国発の人気動画アプリ「TikTok(ティックトック)」などを通じた中国への情報流出の危険性を議論した」。

 その結果、「甘利氏は報道陣に「(アプリが)インテリジェンス(諜報)システムとして利活用されるリスクを精査していく」と語り、中国への情報流出などの問題があれば、規制を検討する考えを示した」という。

 これは、米中対立のなかで、米国政府によるティックトックや、中国のメッセージング・決済スーパーアプリ「WeChat(微信、ウィチャット)」などへの規制強化の動きに対応した動きだ。現に、トランプ大統領は8月6日、「ティックトック」(TikTok)を運営する中国企業「ByteDance(バイトダンス)」に加えて、ウィチャットとの間で、米国企業に45日以内にすべての商業関係を解消せよとする2つの行政命令を出した(前者は「TikTokによる脅威への対処に関する大統領令」、後者は「TikTokによる脅威への対処に関する大統領令」を参照)。

 さらに、同大統領は2020年8月14日、「ByteDance LtdによるMusical.lyの買収に関する大統領令」を出した。バイトダンスは2017年に米動画アプリの「Musical.ly(ミュージカリー)」を運営するケイマン諸島に設立された同名の会社を買収し、ティックトック改良版に統合していた。この大統領令では、ミュージカリーの全持ち分取得が米国の国家安全保障を脅かす行動をとる可能性があるとの証拠を得たとされ、ミュージカリーの米国国内での商業活動を禁止し、バイトダンスがその利益を所有することも禁止された。

 それを実現するために、大統領令発出日から90日以内にバイトダンス、その子会社、関連会社、および中国の株主はそれらのすべての権益と権利を売却するよう求められた。そのなかには、バイトダンスの米国におけるティックトック・アプリの運営を可能にしたり、サポートしたりするために使用された、有形または無形の資産または財産が含まれるほか、米国内のティックトック・アプリまたはミュージカリー・アプリの利用者から得た、または、派生したデータが含まれている。

北京字節跳動科技(バイトダンス)の本社=2018年12月6日、北京

欠けている児童のプライバシー保護という視点

 米国の議論でも、日本の議論でも、欠けている論点がある。それは、個人情報を盗み取ろうとする動きに対する児童のプライバシー保護という視点だ。

 後述するように、日本は他国に比べてこの視点からの規制が決定的に遅れている。ティックトックという若者に人気のアプリへの規制を行う場合、何よりもまず実情に合わせた議論が大切だ。ところが、日本での議論においては、日本の親が児童の個人情報保護という責任を果たしていない現実に対する反省がまったくない。ただ、「対米追従」があるだけだ。

 筆者は昨年末、「国家と時間 協定世界時(UTC)を導入せよ:「時差」は絶対的なものでは、決してない」という記事のなかでティックトックに言及したことがある。当時から、日本の若者の間でティックトックが大流行していたから、その問題点にも早くから気づいていたことになる。

13歳以上を対象とするティックトック

 それは、ティックトックが13歳以上を対象としているのに小学生さえ利用しているという問題だ。ティックトックの日本語版をみると、「TikTok は 13 歳以上を対象としています。13 歳未満のお子様には、このアプリを使用させないようにしてください」とはっきりと書いてある。英語版では、「限定アプリ(TikTok for Younger Users)で13歳未満の方に対応している」との説明がある。にもかかわらず、小学生が

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