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BLM運動をめぐりアメリカの日本人・日系人がおかれている微妙な立場

状況によって黒人と白人双方から敵にも味方にも見られる存在の悩ましさ

賀茂美則 ルイジアナ州立大学社会学部教授・学部長

 5月25日、ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が白人警官に首を膝で押さえつけられ、「息ができない」と言いながら死亡した事件を機に、これまではそれほど注目されていなかったBLM(Black Lives Matter、黒人の命は大切)運動が全米のみならず、世界中で吹き荒れている。

 日系アメリカ人はアメリカでは黒人と同様、マイノリティの立場であり、差別に対して闘ってきた歴史や現在の人種的な立場、また新型コロナに関しても共に差別されるなど、共通点も多い。その一方で、アメリカに移民してきた経緯、現在の社会・経済的な立場の違い、また、後述するように差別されてきた歴史に対する「償い」の有無という点で決定的に異なっており、駐在などで一時滞在している日本人とともに、非常に難しい立場に置かれている。

 本稿では盛り上がるBLM運動に関して、アメリカ合衆国全体で約80万人いると言われる日本人、または日系人が置かれている微妙な立場について書くことにする。

溜まりに溜まったマグマが吹き出した

 BLM運動のきっかけはフロイド氏に対する白人警官の暴力(殺人事件)であるが、1991年にロサンゼルスでロドニー・キング氏が警官に暴行を受ける場面がビデオカメラに録画・公開されて大規模な暴動に発展して以来、「厳然たる証拠」が増えたこともあり、黒人に対する警官の暴力が白日の下に晒(さら)されるようになった。

 2016年には、筆者が住むバトンルージュ市のコンビニの前でCDを路上販売していたアルトン・スターリング氏が警官に至近距離から射殺された映像が公開され、これに端を発したテキサス州の暴動で警官5人が死亡、他にも11人が負傷した。さらにバトンルージュでも他州からやってきた活動家が発砲し、警官が3人死亡、さらに3人が負傷した。

 2020年に入ってからも、アメリカでは警察官による理不尽な暴力行為は後をたたず、1年間で警官に撃たれて亡くなる黒人の数は、なんと200人以上に達する。

 殺人とまではいかなくても、人種に基づいたと思われる恣意的な職務質問が数多く行われている。この結果、微罪であっても裁判にかけられ、有能な弁護士を雇う金銭的な余裕もない場合が多い黒人は、刑務所で多数を占める。全米の刑務所に収容されている黒人男性は、男女合わせた収容者数の34%(人口比では白人男性の5倍)、一生の間に刑務所に入る割合も1/3(白人男性は1/17)と言われる。今回のBLM運動は、黒人に対する差別、それも警察官による暴挙に対して溜まりに溜まったマグマが噴き出した、という感がある。

拡大米オレゴン州ポートランドの連邦裁判所近くでは、警察官の暴力などで犠牲になった黒人の人々の似顔絵が並べられていた=2020年8月1日、園田耕司撮影

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筆者

賀茂美則

賀茂美則(かも・よしのり) ルイジアナ州立大学社会学部教授・学部長

1958年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科在学中に1年間アメリカのワシントン州に留学。卒業後、総合商社「トーメン」にて鉱山開発、石炭輸入に関わる。退社後、シアトルにあるワシントン大学で社会学修士・博士号を取得後、現職。主な著書に、「アメリカを愛した少年:服部剛丈君射殺事件裁判」(講談社)、「家族革命前夜(イブ)」(集英社インターナショナル)。英語では社会学入門の教科書のほか、家族、高齢化、幸福論、階層、比較分析など広い分野で論文多数。アトランタ五輪以来、サッカーワールドカップなどのスポーツイベントにスタッフとして関わり、スポーツに関するコラムも多い。