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携帯電話 再び「ガラパゴス化」を許す反省なき腐敗構造

個人利用者の利便性を無視した通信政策が繰り返される

塩原俊彦 高知大学准教授

 携帯電話の料金値下げを議論する総務省の審議会の座長や委員の少なくとも8人が過去に、携帯大手NTTドコモやKDDI側から研究寄付金を受け取っていたと2019年2月3日付で共同通信が報道すると、東京新聞は下記に示したようなツイートを発信した。違法性はないにしろ、こうした構図が許されていいはずはない。ゆえに、筆者は同年8月、拙著『サイバー空間における覇権争奪』のなかで、つぎのように記述した。

東京新聞のツイート(2019年2月4日)
(出所)https://twitter.com/tokyohotweb/status/1092178901466378241
 「総務省の携帯電話料金値下げを検討する審議会の複数のメンバーが平然と携帯電話会社から計4000万円もの研究寄付金を受け取ったまま審議をしている国では、業界寄りの政策がいまもまかり通っている。こんな日本である結果、サイバー空間における戦略で日本は世界から決定的に遅れてしまっている。誤った政策で世界から孤立した、日本の携帯電話の 「ガラパゴス化」とよく似た現象がいまも起きつつあるのだ。過去の過ちを反省できないまま、同じ過ちを繰り返しつつある現状に警鐘を鳴らしたい。」

 いまも同じ過ちが繰り返されているので、ここでその惨状について解説してみたい。

SIMカードをめぐって

 2020年7月29日、ロシアのヴェードモスチ電子版は、「ヴィンペルコムとメガフォンは、加入者向けにeSIM接続サービスの提供を開始しつつある。eSIMは、加入者が物理的なSIMカードを購入することなく、遠隔地を含めたモバイルネットワークに接続することを可能にする」というニュースを伝えた。ロシアでさえ、通信事業者(キャリア)が個人利用者向けにeSIMが利用できるようになるのかと筆者は驚いた。だからこそ、改めてeSIM問題を論じることにしたのだ(詳しくは前述した拙著を参照)。

 まず、SIMカードから説明しよう。SIMカードは契約したキャリアのネットワークに接続してスマートフォンやタブレットを利用するのに欠かせないもので、SIMとはSubscriber Identity Module (加入者認識モジュール)の頭文字をとっている。通常、SIMカードというかたちでスマホなどに内蔵されてきた。

 これに対して、eSIM(イーシムと読む)とは、embedded、つまり「埋め込まれた」 SIMを意味している。遠隔操作で中身を書き換えられるようにするものだ。eSIMの利点は、利用者が簡単にキャリアを変更できるので海外旅行で現地のプリペイドSIMなどを購入したりする手間が不要になる。それどころか、自宅や仕事場でキャリアを変更することも可能だ。いままでのSIMカードでは一度書き込まれた電話番号情報の上書きができなかったためにカードの交換が必要であった(外見は従来型で電話番号が書き換え可能なSIMもある)のだが、eSIMでは上書きが可能なために簡単にキャリア変更ができる。もちろん、eSIMであっても「SIMロック」をかけて、そうさせないことも可能だ。さらに、一つのeSIMに複数の電話番号の情報を登録するといったこともできる。

 ただし、これらのeSIMのメリットはキャリアにとってはデメリットとなる。とくに、キャリアが簡単に変更できるようになると、利用者の囲い込みに躍起となってきた日本のキャリアには打撃になりかねないからである。スマートフォンでも個人向けサービスにeSIMが利用できるようになれば、「標準SIM→マイクロSIM→ナノSIM」と小型化されてきたSIMカード自体がいらなくなり、スマートフォンの小型化・軽量化がなお一層進むことになるだろう。にもかかわらず、こうした変化に対する日本の行政の対応は遅い。理由は簡単だ。行政がキャリアと「癒着」してきたからだ。それに政治家が絡んでいる。

日本を「ガラパゴス化」させた郵政省

 ここで、NTTを軸に「電電ファミリー」を傘下に置いて、関連する国内産業に君臨してきた郵政省(現総務省)が日本を「ガラパゴス化」させたという愚策を思い出そう。利用者の利便性をまったく無視して、「電電ファミリー」を守るという政策によって、利用者が大きな損失を

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