藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
次の政権の性格を左右 自民党総裁選で避けず議論を
安倍晋三首相が8月末の記者会見で、辞任を表明する直前に「一時の空白も許されない」として語った懸案がふたつある。一つはコロナ対策だが、もう一つが「安全保障政策の新たな方針」だ。その含意は、戦後の防衛政策を大転換する敵基地攻撃能力の保有である。これをどこまで引き継ぐのかが、次の首相に問われる。
安倍首相は8月28日夕、首相官邸で目を少し赤くうるませながら、青のカーテンを背に記者会見に臨んだ。冒頭発言では、在任中何度も口にした「我が国を取り巻く厳しい安全保障環境」というフレーズを使い、こう語った。
「迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。一昨日の(政府の)国家安全保障会議では、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を協議しました。今後速やかに与党調整に入り、具体化を進めます」
2カ月以上前の6月18日の記者会見で自身が持ち出した、「安全保障戦略の新たな方向性を打ち出す」という方針を、辞任表明の場で改めて強調したのだ。しかも今回の会見では敵基地攻撃能力の保有について、「迎撃能力向上だけで国民が守れるのか」と冒頭で自ら言及した。6月18日は質問に答えてだった。
安倍首相の言う「速やかに与党調整、具体化」が、次の首相を決める自民党総裁選を控え、また連立を組む公明党が敵基地攻撃能力の保有に消極的という混沌の中で、どのように進むのかは定かでない。
ただ、1954年の自衛隊発足以来、違憲ではないとしながらも控えてきた敵基地攻撃能力の保有に踏み切るかどうかは、次の首相が担う政権の外交・安保政策を出だしから強烈に方向付ける判断だ。自民党総裁選では大いに議論されるべきであり、その論点を示しておく。