首相の側近が決めた政策を各省が実施。迅速、革新的になった政策の多くに成果乏しく
2020年08月29日
7年8カ月に及んだ第2次安倍内閣が突然、幕を閉じた。この政権の特徴の一つとしてよく言われるのが「官邸主導」、あるいは「安倍一強」という言葉だ。
これは、自民党内の権力闘争で安倍氏が圧倒的な力を持っていたことを示す言葉であると同時に、主要な政策決定のプロセスで、過去の政権では例がないほど首相官邸に権力が集中していたことを示すものでもある。
歴史の長い自民党政権は、大事な政策を決めるときに、霞が関の官僚組織や自民党の族議員らとの調整が不可欠となっている権力分散型のシステムが基本となっていた。つまり、首相が指示すれば、官僚も与党も黙って従うという仕組みにはなっていないのである。そのため、各省間の調整や自民党支持団体間の利害調整などが不可欠で、ときには膨大な時間と労力が必要だった。
ところが、安倍政権はこうした常識からかけ離れた政権だった。安倍首相が重要と考える政策は、首相を取り巻く「官邸官僚」と呼ばれる側近グループが企画立案し、それを関係省に指示するという、これまでとは逆のベクトルで動いた。
そうした「官邸官僚」の中心にいるのが、今井尚哉・首相補佐官(経済産業省出身)、和泉洋人・首相補佐官(国土交通省出身)、杉田和博・内閣官房副長官兼内閣人事局長(警察庁出身)、長谷川栄一・内閣広報官(経済産業省出身)、北村滋・国家安全保障局長(警察庁出身)らである。
いずれも官僚出身の彼らのポストは、通常の官僚人事とは異なる「政治任用」ポストで、首相が退陣したからと言って元の官庁に戻るわけではない「片道切符」の人事で起用されている。つまり、側近中の側近の集団であり、首相への忠誠心は極めて強い。
彼らは毎日、頻繁に首相に面会し、首相の意を受けて首相政策を企画立案していった。それは政権発足直後のアベノミクスの「三本の矢」に始まり、「働き方改革」「1億総活躍社会」などの経済政策、さらには拉致問題をめぐる対北朝鮮政策や北方領土問題を核とする日ロ交渉など外交・安全保障政策など、あらゆる分野に及んだ。
今年に入ってからは、新型コロナウイルスの感染拡大をうけた学校の一斉休校や、「go to キャンペーン」など、一連のコロナ対策の多くが官邸主導だった。
当初、各省は官邸から次々と指示が降りてくることへの反発を見せていたが、官邸の方針に異を唱えた官僚が、「内閣人事局」の判断で冷遇されたり退官に追い込まれたりする例が続いたことから、次第に声を出さなくなってしまった。
その結果、かつては日本最大のシンクタンクと言われたほど情報と人材の宝庫であった霞が関の官僚組織は、ボトムアップで新しい政策を創り出すことを避けるようになり、徐々に官邸から降りてくる政策の実施機関という性格を強くしていった。
その一方で、もう一つの主体である自民党も変質してしまった。
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