綱領との関係を見ることが政党政治と民主主義の王道である
2020年09月03日
2020年9月は、与党第一党と野党第一党の党首選挙が同時に行われる、憲政史上で稀有な月となった。自由民主党は、安倍晋三総裁(首相)の辞任表明により、総裁選挙を行う。立憲民主党と国民民主党などが合流する新党も、代表選挙を行う。
これは、両党の関係者だけでなく、すべての有権者にとって政党政治を考える良い機会でもある。政党は、議会制民主主義において不可欠の組織であるにもかかわらず、憲法上の位置づけはなく、私的な運営がまかり通る不思議な組織だからだ。かつての自民党総裁選では、しばしば現金が飛び交うといわれたが、総裁選での票の買収は違法でない。
多くの有権者が政党に所属せず人生を過ごす一方、国政選挙で政党を考慮せずに投票することは難しい。どのような社会を目指すのか、党首や候補を信頼できるのか、自らの重視する課題は解決されるのか、政権を維持するのか変えるのかなど、政党や候補の示す様々な情報を踏まえて、有権者は一票を投じる。
有権者が政党に無関心であっても、政党の方から追ってきて、あらゆる有権者に影響を及ぼす関係にある。日本に住む誰もが、政党政治から逃れられない。このことは、中学校の社会科ですべての有権者が学んでいるはずだが、自覚している人はそれほど多くないだろう。
両党の党首選挙が同時に行われることは、それだけ報道が増え、有権者の政党政治への関心が高まることになる。自覚的か無自覚的かにかかわらず、それだけ多くの有権者が政党政治を考えることは、民主主義の発展にとってプラスであってもマイナスではない。
そこで、議会制民主主義の観点から、党首選挙をどのように見るべきか、視座を提供する。従来は、党首候補の人柄や目につく主張などが場当たり的に報じられ、有権者は共通の視座を持っていなかった。けれども、議会制民主主義において政党政治が不可欠な以上、有権者として共通の視座は存在する。この視座から不足する情報があれば、有権者はその説明を党首候補に求めることが適切である。
政党の理念と国家方針は、政党が有権者に示す普遍的な公約として、綱領に示されている。理念は基盤となる政治思想を示し、国家方針は政策の基本方針を示す。政党は、有権者に対して綱領を実現すると約束して集っているのだから、綱領とはまさに公約である。目の前の選挙と関係なく、長期にわたって存在する公約だ。
党首選挙は、共通の理念を有する者同士で、国家方針を実現するための具体的な方法を争う。綱領に示されている国家方針は、目指す社会像と国家運営の基本原則を示しているに過ぎず、当面の政策課題や実現の手段を示すものでない
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