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プーチン支配の本質は「強権」

習近平や安倍晋三との共通点は「カリスマの欠如」

塩原俊彦 高知大学准教授

 政敵を葬り去るというのは、権力者がその権力を維持するためにとる政治の常道だ。ロシアのウラジーミル・プーチンがこの方法をとっているかどうかは不明だが、その可能性は高いと少なからぬ人々が思っているのではないか。

 8月19日、シベリアのトムスクからモスクワに向かう飛行機内で体調不良を訴え、その後、重体のまま、22日にベルリンに搬送された、反プーチンの急先鋒、アレクセイ・ナヴァーリヌイ(ナワリヌイという日本語表記は使わない)をめぐって、何者かが毒殺をはかったのではないかとの憶測が広がっている。

背後にプーチン?

拡大反プーチン派のデモに参加したナヴァーリヌイ氏=2020年2月29日、モスクワ Gregory Stein / Shutterstock.com

 プーチンにとって、ナヴァーリヌイは「天敵」のようなものだ。ナヴァーリヌイはプーチン政権の腐敗を執拗に暴露しつづけてきたからである。度重なる逮捕・起訴、有罪判決にもかかわらず、彼はいわば命がけで権力者プーチンを批判しつづけてきたのである。

 ナヴァーリヌイ主導で2011年に設立された「腐敗闘争基金」は、プーチンおよびその取り巻きの腐敗を暴いてきた。とくに、2017年にユーチューブにアップロードされたドミトリー・メドヴェージェフ(当時首相)の腐敗に関する報道は世界中の人々を驚かせた。プーチンに比べて、比較的腐敗していないとみられていた彼が実は、「真っ黒」であることを白日のもとにさらしたのだ。

 あるいは、2020年1月、メドヴェージェフに代えて首相に就任したミハイル・ミシュスチン連邦税務局長官についても、その腐敗ぶりを明らかにする動画をアップロードした。彼の宮殿のような住まいは、悪事なくしては不可能であることはだれにも明らかだろう。

 こんな調子だから、プーチンがナヴァーリヌイを鬱陶しく思っていたのは確実だ。だが、プーチン自身がナヴァーリヌイ殺害命令を出したのかどうかはわからない。ただ、その疑いが濃厚であるとみなす者は多い。なぜか。これまでの状況証拠がそう推量させるからだ。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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