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若者の怒りがはじけた!権威主義と戦うタイ・香港・台湾のミルクティー同盟

タイの若者に何が起きているのか(上)

吉岡桂子 朝日新聞編集委員

 タイで若者を中心とした反政府運動が勢いづいている。8月16日には首都バンコクで、2014年の軍事クーデター以降では最大規模となる約2万人が参加した反政府集会も開かれた。軍政色の強い憲法の改正や言論の自由に加えて、王室改革にも声を上げるようになった。絶対的な権威であり不敬罪もあるタイで、王室に対する不満もまじえた言及は異例の事態だが、ネットからリアルな集会まで、大学生だけでなく中高校生まで、バンコクだけでなく地方都市まで、と活動の輪は広がる。

 軍政時代から、権威主義的な政治や教育問題の改革を求める運動をしてきたチュラロンコン大学4年生のネティウィット・チョーティパットパイサーンさん(23)は、「若者の怒りがはじけた」と語る。香港の民主活動家、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)さんとも友人で、中国という独裁体制と向き合う香港や台湾の若者とは、権威主義と戦う「精神的な『同盟』を結べる」と心を寄せるネティウィットさんに、若者たちの思いを聞いた。

チュラロンコン大学4年生のネティウィット・チョーティパットパイサーンさん=2020年8月22日、バンコク・チュラロンコン大学、吉岡桂子撮影

ネティウィット・チョーティパットパイサーン
1996年生まれ。タイのチュラロンコン大学政治学部4年生で、同学部の学生連盟のリーダーを務める。2014年5月の軍事クーデターで成立した軍政(2019年3月総選挙を経て民政復帰)、それに連なる現政権や権威主義的な教育のありかたなどを批判してきた。ノーベル平和賞を受賞した中国の知識人劉暁波氏(故人)や香港の民主活動家黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏らの著書をタイ語に仲間と翻訳した。

盛り上がる運動。地方都市にも拡大

――タイで若者を中心にした反政府運動が勢いづいています。絶対的権威を持つ王室の改革を求める声も上がっています。不敬罪のあるタイではきわめて異例の事態だと思います。中高校生も参加していますね。16日に民主記念塔前で開かれた集会には約2万人が集まり、①プラユット現政権は退陣して解散・総選挙する②軍の影響力行使を可能にしている憲法を作り直す③抗議活動への嫌がらせをやめることなどを主張していました。

 3月に若者の怒りがはじけたと思う。(野党第2党だった)新未来党が解党を命じられたことをきっかけに、学生や市民による抗議集会が開かれたのです。3月末にタイ政府が新型コロナウイルス対策で非常事態宣言を出したため、大規模な集会は中断されていましたが、7月以降、再び運動は盛り上がっている。チェンマイやコンケンなど地方都市にも広がっている。

 タイ政府の新型コロナ対策にも不満が高まっています。

――タイの新型コロナの感染者は三千数百人、死者は約60人にとどまり、他国に比べると管理できているのでは?

 外国のVIPは隔離なしで入国させたのに、経済や大学の活動は封じてきた。二重基準にみんな怒っています。感染が落ち着いてからも非常事態宣言を何度も延長しているのは、反政府運動を抑え込みたいからです。このままでは失業者が増えて社会生活だってもたなくなるでしょう。

「こんなにたくさん来ているよ。数万人はかたい」。反政府集会に参加した学生のひとりが、仲間の間で転送されている写真を見せてくれた=2020年8月16日、バンコク・民主記念塔前、吉岡桂子

王室改革を求める意見が公然と

――ネティウィットさんは、批判が今以上にタブー視されていた4年前、元国王の銅像の前でお辞儀をする儀式を拒みましたね。軍政や権威主義的な教育の問題にも批判を続けてきました。

 自分は以前、学生の中でも少数派の気分でした。いまは違う。中学生たちまで声を上げ始めている。タイの人々はもともと急進的ではないと思うけど、このままではタイがだめになる、と考える人が増えているのです。

 王室改革を求める意見が公然と出ていることには、私も驚いています。そういう意見は社会にあったけど、公然とは表現しなかった。でも、若者たちは、なぜ言っちゃだめなんだと考え始めている。もっと王室批判を強めたいという声もあるのです。学校によっては、生徒に対して抗議活動に参加したら退学させるというプレッシャーをかけていますが、それでもコントロールするのが難しくなっています。

 フェイスブックは実名で、年上の世代から特定されてしまうけど、ツィッターには匿名性がある。複数のアカウントをつくってハッシュタグで一気に主張を広げることができるから、今回の運動では多用されている。集会を警戒して、政府は警察を動員しているが、軍隊はまだ姿をみせていない。10月に向けて、さらに運動は広がっていくと思う。

民主記念塔前で開かれた反政府集会は23時ごろまで約8時間も続いた。不敬罪のあるタイではタブー視されている王室批判もまじっていた=2020年8月16日、バンコク、吉岡桂子撮影

中国的なもの、非民主的な制度と戦う同盟

――「ミルクティー同盟」についてうかがいます。タイと中国の若者が今春、台湾や香港の位置づけをめぐってネット上で衝突し、タイ側の援護にまわった台湾、香港とタイのネットユーザーとの間に「ミルクティー同盟」と呼ばれるバーチャルなつながりができました。オレンジ色の甘いタイティー、台湾はタピオカ入り、香港は練乳で甘味をつけた濃い紅茶と、それぞれ名物のミルクティーを絆にした精神的な結びつきだそうです。バンコクの反政府集会で取材したタイ人の学生は、タイ、香港、台湾とも、権威主義と戦っている共通点があると話していました。

 ミルクティー同盟の出現にはとても驚いた。若い世代をひきつけるキュートなネーミングだと思う。インターネットから偶然に生まれた。中国のネットユーザーからの攻撃に立ち向かうタイと台湾、香港とのあいだに何か共通点を探そうとして、どこからともなくそう呼ばれるようになった、ときいている。ユーモアがあるでしょう。

 この同盟は、中国のイメージとは対照的。中国は強大で人口も多いけど、若者にとって魅力的ではない。そもそも、こんな同盟に対しても、中国は米国が背景にいるとか、いつもの陰謀論を言っているのですよ。中国政府は、国外でも民主運動が広がっていくのがいやなので、タイでは軍政を支持してきたし、(タイの若者による反政府運動についても)タイ政府側を支持するだろう。それがまた、われわれからすれば魅力的ではない。台湾がコロナの対応をはじめ、LGBTや人権の問題などで魅力的に映るのと対照的です。

 大事なのは、

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