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安倍政治とは何であったか? 「外政」と「内治」の評価の乖離が示すその本質

歴代最長7年8カ月の執政に対する概略的な評価

櫻田淳 東洋学園大学教授

「自由、民主主義、人権、法の支配」の擁護を徹底

 2012年12月、安倍が第2次内閣を発足させて以降に披露した対外政策展開は、民主党内閣下で醸成された「中国への警戒姿勢」に安倍第1次内閣下で模索された「価値観外交」が組み合わされたものであったと解析できる。安倍は第2次内閣発足に際して、「アジアの民主主義的な安全保障ダイヤモンド」構想を提起し、日米豪印4カ国の提携を唱えたのであるけれども、その折に下敷きになったのが、「南シナ海が『中国の湖』になる」という認識であった。

 以降、安倍の対外政策展開に際しては、「『自由、民主主義、人権、法の支配』といった普遍的価値意識の擁護」という言辞が執拗(しつよう)に繰り返されることになる。安倍の第2次内閣発足以降における対外姿勢を特色付けたものは、その「徹底性」であったといってよい。それは、第1次内閣期に、「美しい国」といった言葉で日本の土着ナショナリズムの匂いを濃厚に漂わせた安倍の政治姿勢からは、顕著な変容を印象付けるものであった。

 G・ジョン・アイケンベリー(国際政治学者)は、『フォーリン・アフェアーズ』(2017年5・6月号)誌上に発表した論稿にて、安倍をアンゲラ・メルケル(ドイツ首相)に並んで、「リベラルな国際秩序」の守護者として位置付けたものであるけれども、その論稿は、安倍が「『自由、民主主義、人権、法の支配』といった普遍的価値意識の擁護」という姿勢を徹底させ、「自由主義世界」における主要な政治指導者として認知されたことを鮮明に示した。

 加えて、安倍における「中国への警戒姿勢」は、米中「第2次冷戦」下における米国の対中強硬姿勢を実質上、先取りするものであった。安倍が提起した「自由で開かれたインド・太平洋」構想が、対中牽制の意味合いとともにドナルド・J・トランプ(米国大統領)麾下の米国政府に受け容れられたのは、日本が対中軋轢を経ていた「先行体験」による。

 習近平(中国国家主席)登場以降、中国共産党政府による現今の「戦狼外交」の展開は、米豪加各国を含む「西方世界」諸国の明白な警戒を招いているところがあるけれども、その警戒姿勢に基づく対外政策を先行して展開していたのが、安倍なのである。安倍に寄せられた他の「西方世界」諸国政治指導者の「信頼」は、結局のところは、「安倍の対中認識は誤っていなかった」という認識と共鳴しているのであろう。

各国の指導者から送られた惜別と称賛の言葉

 安倍の総理辞任表明に際しては、ドナルド・J・トランプやアンゲラ・メルケルだけではなく、ボリス・ジョンソン(英国首相)、スコット・モリソン(豪州首相)、ナレンドラ・モディ(インド首相)、蔡英文(台湾総統)、さらにはウラジミール・V・プーチン(ロシア大統領)といった各国の政治指導者から、惜別と称賛の言葉が送られた。こうした惜別と称賛の言葉とともに、退場する日本の政治指導者は、過去には類例がない。

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筆者

櫻田淳

櫻田淳(さくらだ・じゅん) 東洋学園大学教授

1965年宮城県生まれ。北海道大法学部卒、東京大大学院法学政治学研究科修士課程修了。衆議院議員政策担当秘書などを経て現職。専門は国際政治学、安全保障。1996年第1回読売論壇新人賞・最優秀賞受賞。2001年第1回正論新風賞受賞。著書に『国家への意志』(中公叢書)、『「常識」としての保守主義』(新潮新書)など。

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