次期政権に「敵基地攻撃」で継がれかねない危うさ
2020年09月06日
歴代最長政権の末期に、失態がまた一つ露呈した。
防衛省は9月4日、陸上配備型の弾道ミサイル迎撃システム、「イージス・アショア」の配備停止をめぐる検証結果を発表した。国民へのリスクにどう対応するかをめぐる、拙劣で拙速としか言いようがないその顚末(てんまつ)に、前のめりな安全保障政策の危うさが現れている。
それは安倍晋三首相の次の政権にも引き継がれかねない。どういうことか? 詳しく述べたい。
まず、今回の検証結果発表に至る経緯からだ。
安倍内閣がイージス・アショアの配備停止を唐突に決めたのは6月中旬だ。配備候補地とした山口県と秋田県の2カ所で、防衛省は迎撃ミサイルのブースター(推進装置)を切り離し後に住民に危険のない場所に落とすと説明していたが、その実現には「相当のコストと期間」がかかるという問題が判明したため、という理由からだった。
だが、安倍内閣が陸上でのアショア配備を決めたのは2年8カ月も前のことだ。北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射がピークだった2017年の末に閣議決定。ミサイル防衛を担う海上自衛隊のイージス護衛艦を中国の海洋進出などへの対応に回す必要から進めてきた。配備停止が寝耳に水だった自民党からも歴代防衛相を中心に検証を求める声が上がり、今回の発表となった。
明らかになった経緯で特に深刻なのは、ブースター問題を河野太郎防衛相が6月初めに知って配備停止へ舵を切るまでに、「悪い話」(河野防衛相)を約5カ月も抱え込んだ防衛省の事務方の振る舞いだ。
防衛省でアショア導入に向け、米国や地元との調整を進めていたのは「イージス・アショア整備推進本部」。山本朋広防衛副大臣をトップに2019年に設置された。秋田県での配備候補地調査でずさんな測量があったり、住民説明会で防衛省の事務方が居眠りしたりと不祥事が相次いだため、態勢を強化したとした。
ところが、今回の防衛省の検証結果や担当者の補足説明によると、今年初め、防衛省と米ミサイル防衛庁の事務レベル協議を通じてブースター問題への「懸念」が生じた際、その話は防衛省事務方トップの高橋憲一事務次官(当時。写真右端)までしか上がらなかった。
防衛省の事務方はそのまま米側と協議を続け、5月下旬になって、ブースター問題への対応には「(アショア)システム全体の大幅な改修が必要と判明し、相当のコストと期間をかけて改修するのは合理的でないと判断」。「安全対策として地元に約束していたブースターの落下は実現できない」と結論を出した。
6月初めになって、高橋次官が河野防衛相に伝え、推進本部長の山本副大臣に伝わったのはその後だったという。
この段階で河野防衛相は、「地元への約束」を反故(ほご)にしてアショア導入を進めるか、アショアの配備自体を停止するかの選択を迫られた。安倍首相や菅義偉官房長官に説明した上で、選んだのは後者だった。
9月4日に記者団に検証結果を説明した防衛省の事務方の幹部は、今年初めの段階でブースター問題への「懸念」を推進本部で高橋次官らと共有したひとりだった。その時点で河野防衛相に伝えなかった理由を、「極めて技術的な性格が強く、ちゃんと確認しないといけないということだった」と振り返った。
ただ、河野防衛相はこの日の記者会見で「悪い話をきちんと早く上げられる風通しの良い組織にしなければならない。総理からもお叱りをいただいたが、そこが徹底できなかった私の責任を痛切に感じている」と強調。「次官以下の幹部職員に訓告したい」と語った。
今回のブースター問題の河野防衛相への報告の遅れについては、評価が分かれるかもしれない。仮に河野防衛相が「懸念」の段階で伝えられていたとしても、事務方から「極めて技術的」な問題なので判断を待ってほしいと言われれば、アショア配備停止や代替案の検討を早められたとは限らないからだ。
それでも
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