宇野重規(うの・しげき) 東京大学社会科学研究所教授
1967年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。同大学社会科学研究所准教授を経て2011年から現職。専攻は政治思想史、政治学史。著書に『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫)、『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書)、『保守主義とは何か』(中公新書)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
分断の時代に適合したナショナリズムと政府主導の経済運営のミックスで長期政権を実現
安倍晋三首相が辞任を表明した。先日、連続在任期間で大叔父の佐藤栄作元首相を抜き、通算でもすでに桂太郎元首相を上回っている。文字通り、近代日本における最長政権である。
しかし、その最長政権が日本政治にもたらしたものはいったい何であったのか、ここできちんと総括しておくことが必要だろう。本稿ではとくに戦後日本における保守主義という視点から、この問題を考えてみたい。
いうまでもなく、安倍首相は保守主義者を自認する政治家である。しかし、いかなる意味において、安倍首相が保守的であるかは自明ではない。
日本では、吉田茂元首相の流れをくむ政治的系譜を指して、「保守本流」という言葉がしばしば用いられる。それでは安倍首相の保守は、このような「保守本流」といかなる関係に立つのだろうか。
拙著『保守主義とは何か』(中公新書)でも整理したように、1955年、自由党と日本民主党が合同して成立した自民党には、異なる政治的志向をもつ集団が明らかに併存していた。なかでも重要なのは、軽武装・経済国家を目指す吉田の路線と、ナショナリズムへの志向をより強く持つ岸信介元首相の路線である。
前者が、軍事力よりはむしろ経済力を重んじ、日米安保体制の下、自由な経済活動を重視したとすれば、後者は安保改定でアメリカに対してより対等な関係を求めたように、日本の独立を強く求め、自主憲法の制定を主張した。そして、しばしば「保守本流」と呼ばれたのは吉田の路線にほかならない。
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