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反政府運動が勢いづくタイで一党独裁の中国に厳しい目を向ける若者たち

タイの若者に何が起きているのか(下)

吉岡桂子 朝日新聞編集委員

民主化を求める若者に広がる中国への不満

――どう違うのですか。

 タイに2014年の軍事クーデターで生まれた政権に対して、中国政府は「タイの内政であり干渉しない」と言ってきた。これは軍政とそれに続く現政権に対する明確な支持であり、タブーなき民主化から王室改革まで求める若者や一部の知識人には不満です。また、強大化した中国は国際社会のトラブルメーカーにも映っている。国内では一党独裁を続け、対外的には野心的な強気の外交を展開し、米国のみならず各国とぶつかっているからです。タイは中国と直接の領土紛争はありませんが、南シナ海の専横ぶりは当然、目に入ってくる。

 中国人観光客がタイを訪れ、マナーが悪い人もいる。不動産に投資してビザを取得して、半永久的に住もうとする中国人も増えていて、バンコクには新しいチャイナタウンができている。タイは歴史的に華人が多い国で、私の曽祖父母も大陸出身です。あの世代は貧しい中国人がタイへ移民しました。現地の社会や文化に適合しようとしました。しかし、大陸から今、移り住む人は裕福で固まって住んで、現地社会になじもうとはしない。ビジネス相手としては非常に重要ですが、複雑な思いを抱くタイ人がいることは、日本の方々も想像できるでしょう。

拡大反政府集会の会場に置かれた赤い牛。栄養ドリンク「レッドブル」の創業者の孫がひき逃げ事件の疑いがありながら、優遇されたとして貧富の差による二重基準が庶民の怒りを招いている=2020年8月16日、バンコク・民主記念塔前、吉岡桂子撮影

ポジティブなイメージ作りに失敗した中国

――香港の民主活動家として知られる黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏が2016年、タイで若い活動家が開いた民主主義を語り合うセミナーに参加しようとして、タイ当局から入国を拒まれましたことがありました。

 中国政府への配慮です。仮に今、香港の活動家が入ろうとすれば、中国への配慮だけでなく、タイ自身の反政府活動との連帯を嫌って、やはり入国させないと思います。ネットで偶然うまれたバーチャルなミルクティー同盟(「若者の怒りがはじけた!権威主義と戦うタイ・香港・台湾のミルクティー同盟」参照)がリアルなものになってしまうことが怖いはずです。

 タイの若者たちは軍政の延長線上にある現政権と戦っています。21世紀生まれの若者たちは率直に語り始め、(タブー視されてきた)王室改革まで求めている。

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筆者

吉岡桂子

吉岡桂子(よしおか・けいこ) 朝日新聞編集委員

1964年生まれ。1989年に朝日新聞に入社。上海、北京特派員などを経て、2017年6月からアジア総局(バンコク)駐在。毎週木曜日朝刊のザ・コラムの筆者の一人。中国や日中関係について、様々な視座からウォッチ。現場や対話を大事に、ときに道草もしながら、テーマを追いかけます。鉄道を筆頭に、乗り物が好き。バンコクに赴任する際も、北京~ハノイは鉄路で行きました。近著に『人民元の興亡 毛沢東・鄧小平・習近平が見た夢』(https://www.amazon.co.jp/dp/4093897719)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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