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安倍マーケティング政権の仮面を剝がせ!~Dr.ナイフの問い

なぜ安倍政権の評価は極端に二分されるのか?

Dr.ナイフ @knife900

 安倍政権はその末期においても内閣支持率は30%台を維持し、朝日新聞社による安倍政権7年半の総括調査では、7割の人が好意的な評価をくだしています。

 一方では、安倍政権は憲政史上最悪、戦後最低の内閣であるという声も盛んに叫ばれています。

 一体、なぜ安倍政権の評価は、これだけ極端に分かれるのでしょうか。

 僕は、安倍政権が非常に露骨で巧妙なマーケティングを、国民に対して仕掛けてきた結果だと考えています。

SFIO CRACHO/Shutterstock.com

 よく、メディアが真実を伝えないのが悪い、メディアが政権に忖度するのが問題だという声を聞きます。もちろんメディア側にも責任はあるでしょう。しかしその責任は主体的ではなく受け身の責任です。ジャーナリズム精神を忘れ、単なる情報伝達の器として、政権にいいように利用され続けてきた責任だと僕は考えます。

 安倍政権によるマーケティングといいました。マーケティングとは商品やサービスを売るための仕組み。

 商品やサービスなら分かります、やって当たり前です。

 しかし、はたして政治が国民に対して、マーケティングを仕掛けてよいのでしょうか。

 僕はそれに対して大きな問題意識を持っています。医療業界でマーケティングに深く関わってきた自分の経験をもとに、安倍政権が行ってきたと思われる、国民に対する許されざるマーケティングについて、考察したいと思います。

安倍マーケティング手法1「ターゲティング」

 安倍政権が行ってきたマーケティング手法には、社会倫理的な問題をはらんでいます。それは、特定の層に向けたターゲティング(※)です。

(※)ターゲティングとは、市場を細分化し、その市場に対してターゲットを絞ってマーケティングを展開すること。

 ターゲティングは、狙った層を取り込むのに高い効果を得られます。 強固で熱狂的な支持を得られ、時には信者さえ生まれます。

Baimieng/Shutterstock.com

 しかし、万民に対して平等に政治を行うべき政府・与党が、そんなことをして良いのでしょうか。

 自由民主党は「国民政党」を標榜しています。 全ての国民の利益を代表すると言っている政党が作った政府が、特定の層に向けた露骨なターゲティングをすることは、おかしいのです。

 ターゲティングをもう少し掘り下げます。

 ターゲティングでは「ペルソナ」という、その商品を最も欲しがる代表的な人物像を設定しますが、安倍政権が設定したペルソナとは、どんなものでしょう。

 それは、「戦前の日本を理想」とする人物。

日本は世界でも類を見ない神聖に満ちた国である。
かつての世界の列強としての日本。アジアの盟主だった日本の誇りと自信を取り戻したい。男性が優位の社会が理想であり、女性は男性を助ける存在で、3歩下がって歩く。

 こんな人、いまどきいるのか? と僕なんかは不思議に思いますが、実際には10人いたら2人ほどはいらっしゃいます。それを別に非難も否定もするつもりはありませんが、安倍政権はこのような層に向けた、徹底的なターゲティングを仕掛けてきました。

・美しい国
・憲法改正
・武力増強
・中国、韓国への反感
・夫婦別姓の否定
・教育勅語

 これらのキーワードに反応し、その価値観に共鳴する人たちが、安倍政権の岩盤支持層になりました。安倍政権がどれだけ民主主義を軽んじ、国会を形骸化し、閣僚がどれだけ不祥事を起こしても、岩盤支持層の人は全く気にとめません。自分たちの理想を実現してくれるのは「安倍さんしかいない」のです。

 この「安倍さんしかいない」という歪んだ状況を生んだのは、安倍政権の計算されたマーケティングの結果に他なりません。

安倍マーケティング手法2「生温かいマスマーケティング」

 次に安倍政権が行ったのは「生温かいマスマーケティング」です。

 マスマーケティング(Mass marketing)とは、対象を特定せず、すべての消費者を対象にして、画一化された方法を用いて行うマーケティング戦略。

 代表的なのが、お茶やビールを売るための手法です。 中身はたいして変わらないけど、なんとなく良く見せる方法。とりあえずお店や自販機で選んでもらうためのマーケティング。

 マスマーケティングのポイントは「わかりやすいキャッチコピー」です。誰でも分かりやすいふわっとした言葉。

 ビールのコマーシャルを思い出してください。「のどごし爽やか」とか「感動の泡立ち」、「出来たて生一番」みたいな。

bleakstar/Shutterstock.com

 安倍政権が次々と生み出したキャッチコピーを覚えていますか?

・1億総活躍社会
・すべての女性が輝く社会
・働き方改革
・全員野球内閣
・外交の安倍

 だから何ですか? と思いますが、それが狙いです。よく分からないけど、なんとなく良い気もするし、とりあえず頭には残る。

 積極的に、それを選ぶ材料にはならないけど、イメージとしては残る。

 「具体的なことはよくわからないが、なんとなく支持する」

 これが、安倍政権のマス市場に向けたブランド戦略です。

 野党を批判する人は「野党は政策がない」などいいますが、安倍政権ほど具体的な政策が分からない政権もありません。安倍政権は国民に対して、何か政策を訴えているわけではありません。言うなれば、国民に向けて

 のどごし爽やか! 感動の泡立ち!

 と言っているようなものです。

 それを受けた国民も、酒場で「のどごし爽やか」で覚えた銘柄のビールを飲みながら、同僚と政治の話になれば「安倍さんはよくやっている」「安倍さんは外交が得意」と話すのです。

 もちろん、このような安易で欺瞞に満ちたマーケティングに引っかからない、本質を見抜ける国民も少数派ですがいます。彼ら彼女たちは、安倍政権のそういう欺瞞、狡猾さ、中身のなさを見抜き、自分が馬鹿にされたような気分になります。国家がそういう虚構の中で運営されていることに憤りを感じ、安倍政権を強烈に否定するようになります。

 安倍政権の「ターゲティング」と「生温かいマスマーケティング」によって、有権者は見事に3つに分断されました。

・安倍さんしかいない(安倍信者)
・安倍さんはよくやっている、野党はだらしない(多くの無党派層)
・安倍政権は史上最悪、最低の政権だ(反安倍)

 そして、この巧妙なマーケティング戦略には、おそらくメディアに大きな影響力、支配力を持つ広告代理店(社名は想像にお任せします)が力を貸していると想像します。

ジャーナリズムを取り戻す

 最初の疑問に戻ります。

 国民主権の民主国家において、はたして政府が国民にマーケティングなんか仕掛けていいのでしょうか? 言い方が適切ではないと思いますが、飼い犬が主人を騙すような行為です。

 いかに世の中をよくする事を考えるのが政治家の役割であり使命です。いかに自分の政権をよく見せるか、守るかを考えるであれば、それは政治家ではなく、下劣なマーケティング屋です(マーケティングの仕事をしている人ごめんなさい。あなた方を否定しているわけではありません)

 そして、そのマーケティング屋に加担したメディアの責任。責任というより情けなさ。

 政府のコマーシャルを垂れ流すだけの器に成り下がってませんか?

 国民にマーケティングを仕掛けてくるような政府には正しく抵抗し、その真実の姿をさらけ出す。専門外の僕が言うのは僭越ですが、それがジャーナリズムというものではないでしょうか。

sdecoret/Shutterstock.com

 安倍総理が辞任をし、まもなく新しい総理が誕生します。しかし、安倍政権のやり方は継承され、国民に対する洗脳的マーケティングはさらに醜くなる可能性があります。

 この流れを止められるのはどうすれば良いのか。

 その答えのひとつは、僕が論座編集部から与えられたテーマ「SNS時代の言論はどうあるべきか」にあるように感じていますが、いまはまだ、その答え、アイデアがありません。

 どうかみなさん、政府の露骨なマーケティングに対抗する手段について、アイデアをください。いただいたアイデアを含めて考えをまとめ、次回の論考につなげたいと思います。(Dr.ナイフのツイッターはこちら