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新党・立憲民主党代表に枝野氏。野党が政権交代を実現するために必要なこと

選挙戦略の面から考えた四つのポイント

大濱﨑卓真 選挙コンサルタント

新党・立憲民主党の代表に選ばれ、記者会見する枝野幸男氏=2020年9月10日午後、東京都千代田区、伊藤進之介撮影

 政局の秋です。永田町では安倍晋三総裁の退陣表明を受け、自民党の総裁選が進行中。一方、野党の側は、立憲民主と国民民主などの合流新党、さらに玉木雄一郎代表の新党設立と話題が尽きません。10日は合流新党の代表に枝野幸男さんが選ばれ、党名は立憲民主党に決まりました。

 ただ、政権再編を経て、これから1年の間に必ず行われる衆議院の解散・総選挙で、野党が「政権交代」を実現できるのかというと、否定的な意見が多いようにみえます。平成の時代に二度起きた政権交代は、令和では起きないのか。そもそも野党が政権交代を実現するためには何が必要か、裏を返せば、政権交代のために現在足りていないことは何なのか――。

 政策が重要であることは言わずもがなですが、今回は政策にはあえて触れず、筆者が専門にしている選挙戦略という観点から、四つのポイントに絞って考えてみたいと思います。

ネクストキャビネット(次の内閣)の復活を

 1999年以降、政権交代を狙う野党・民主党は、「ネクストキャビネット」(次の内閣)をつくって政権担当への意欲を示してきました。

 イギリス議会における与野党の政策論争のための制度の一つであった「シャドーキャビネット」(影の内閣)と違い、日本のネクストキャビネットはそこまで注目されていませんでしたが、それでも政権選択選挙のためにはなくてはならない存在だったと筆者は思っています。

 残念ながら、民進党(民主党の後身)の分裂もあって、民進党時代の2017年につくられて以来、ネクストキャビネットは現在にいたるまで存在しません。筆者は政権交代を狙うなら、まずはこのネクストキャビネットを復活させるべきだと思います。なぜ、そう思うのか。

安倍内閣に代わる内閣を目に見える「かたち」で示す

 国政を観察すると、行政府、立法府そして政党には、数多くのポストがあります。例えば現在の安倍内閣では、大臣・副大臣・政務官に約70人が登用されているほか、衆議院では議長ポストをはじめ17の常任委員会のうち15の委員長ポスト、9の特別委員会のうち7の委員長ポスト、3の審査会長ポストと数多くのポストを与党が占めており、この他にも党幹部、部会長、国対といった重要ポストが存在します。

 衆参両院で100人に足りなかった立憲民主党や60人程度であった国民民主党は、単体でこれらを満たすだけの人数が(野党なので当然ではありますが)揃いませんでした。それゆえ、国民の間に政権を担っているというイメージを具体的に想起させることができず、機運を遠ざけていたのは間違いないでしょう。

 野党が政権交代まで成し遂げるためには、与党の敵失と支持率低に頼るだけでは弱く、特定の政党を支持しない、いわゆる無党派の人たちの気持ちを、引きつける必要があります。そのために効果的なのは、与党にかわって政権を担当できそうなイメージを喚起することです。

 行政府、立法府そして政党のあらゆるポストを埋めるのは無理でも、たとえば無党派層の人たちの口から、「次の内閣総理大臣」の候補者として野党議員の名前が出てくる。さらに、「次の内閣官房長官」「次の財務大臣」の適任者に野党議員の名前が挙がるようだと、政権交代の機運はそれなりに高まるのではないでしょうか。

 安倍内閣の大臣がみな、適任であったわけではありません。不祥事も少なからずありました。近年でも、健康問題が表立った理由とはいえ、失言の目立った江崎鉄磨氏、同じく失言で辞任を余儀なくされた桜田義孝氏、選挙区内での寄附行為などが問題となり短期で辞任に追い込まれた菅原一秀氏などが思い出されます。それでも内閣支持率が大きく下がらないのは、国民にとって、安倍内閣に代わる内閣がなかったからに他なりません。

 ましてや、現在はコロナ禍の時代です。危機対応のためにも「政治空白」は許されません。野党にすれば、たとえ政権が代わっても、「政治空白」を生じさせない準備があること、そのためには、まずは政府の法案以上に優れた対案を出すこと、くわえて内閣を引き受ける「体制」を目に見えるかたちで示すことが、効果的だと言えます。

 そのために有効なのが、目で見えるネクストキャビネットです。

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